研究課題/領域番号 |
25460586
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
手塚 裕之 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (30375258)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸管上皮細胞 / 樹状細胞 / TGF-β / 免疫寛容 / IgA |
研究実績の概要 |
本研究では、腸管上皮細胞(IEC)による腸管樹状細胞(DC)のコンディショニング機構を明らかにすることを目的とする。申請者は特に、IECの受容するTGF-βシグナルの重要性に着目し、IEC特異的TGFβ受容体欠損(TβRII-IECKO)マウスの作製、検討をおこなった。昨年度の研究成果から、定常状態におけるDCコンディショニング機構はIECの受容するTGF-βシグナルに依存しないことが明らかとなった。本年度は、炎症状態における上記重要性を明らかにする目的で、TβRII-IECKOマウスおよびその対照(TβRII-flox/flox)マウスにデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)大腸炎を誘導し、病態形成を評価した。その結果、これらマウス間の病態形成に有意な違いは認められなかった。この結果を受け、申請者は本年度よりDC特異的TGFβ受容体欠損(TβRII-DCKO)マウスの作製および解析を開始し、以下の研究成果が得られた。 TβRII-DCKOマウスは8週齢までは対照マウスと同様の体重増加を示すものの、それ以降は体重増加が認められず、15週齢前後に死亡することが判明した。同マウスの早期死亡の原因を明らかにするために、12週齢マウスのリンパ組織、心臓、肝臓、腎臓、胃、および腸管の凍結組織切片を作製し、解析をおこなった。その結果、TβRII-DCKOマウスでのみ全身性に単球を主体とする炎症性細胞の浸潤が認められた。なかでも、胃組織への浸潤は顕著であり、粘膜固有層および粘膜下層への炎症性細胞の浸潤、上皮層直下へのDCの浸潤、粘膜下層に多数のリンパ濾胞の形成が認められた。小腸や大腸においても粘膜下層への炎症性細胞の浸潤、IL-17生産性T細胞の頻度の増加が認められた。また、同マウスでは血清IgG1やIgAの生産量が著しく増加しており、同時に抗dsDNA自己抗体も検出された。これらの結果から、DCにおけるTGF-βシグナルは自発的な自己免疫疾患様病態の発症を未然に防ぐ上で重要な役割を担っていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TGF-βは上皮細胞の過剰な増殖を抑制することが知られていることから、当初は上皮細胞のみがTGF-βシグナルを受容できない上皮細胞特異的TGF-β受容体欠損マウスでは、定常状態および炎症状態のいずれにおいてもさまざまなフェノタイプが出現し、これを手がかりにして上皮細胞による樹状細胞コンディショニング機構の解明に繋げることができるものと予測していた。しかしながら、「研究実績の概要」にも述べたように、同遺伝子改変マウスの腸管免疫系は定常状態で正常であり、腸炎の病態形成も対照マウスと同様の経過を示した。したがって、腸管樹状細胞コンディショニング機構は上皮細胞のTGF-βシグナルに依存しないことが明らかとなった。このような経緯から、本実験の継続を断念した。次に申請者は、腸管樹状細胞におけるTGF-βシグナルの重要性の解明を目指した。 この目的のため、申請者は樹状細胞のみTGF-βシグナルを受容できない樹状細胞特異的TGF-β受容体欠損マウスを作製し、解析をおこなった。その結果、同マウスでは自発的に自己免疫疾患様の病態が発症し、生後15週以内にほぼ全頭が死亡することが確認できた。現在、申請者はこの原因ならびに発症機序の解明に取り組んでいる。 申請書に掲げた研究計画に対する十分な回答は得られなかったが、樹状細胞におけるTGF-βシグナルの欠如が自己免疫疾患発症の一因となることを見出すことができた。この追求は、同疾患の予防法や治療法の開発に繋がることが期待される。以上のことから、現時点での進捗状況はおおむね順調であると考えてる。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、これまでの検討の結果、当初注目していた遺伝子の改変マウスではフェノタイプが全く現れなかったため、本年度の途中から研究計画の一部を変更して実験を再開した。今後の研究目標は、腸管樹状細胞におけるTGF-βシグナルの重要性を明らかにすることである。 本年度の研究成果から、樹状細胞におけるTGF-βシグナルの欠如は自己免疫疾患発症の一因となることが明らかとなり、その発症は主要臓器への炎症性細胞の浸潤によるものと考えられた。しかしながら、樹状細胞におけるTGF-βシグナルの欠如が炎症性細胞の浸潤にどのように繋がるのかは不明である。本研究では、この機序の解明を目的とする。近年、自己免疫疾患モデルマウスの末梢組織から一部の腸内常在菌が検出されることや、同モデルマウスに抗生物質を投与することで病態が軽減することが報告された。これらの報告は、自己免疫疾患の発症や病態形成に腸内常在菌が重要な役割を演じており、常在菌の末梢組織への移行が同疾患発症の契機となることを示唆している。また、腸管樹状細胞は腸内常在菌を捕捉した後に、腸管粘膜固有層から腸間膜リンパ節に遊走することが知られている。これらの知見から、腸内常在菌を捕捉した腸管樹状細胞が恒常的にTGF-βシグナルを受容することで、同樹状細胞が常在菌刺激に対して過剰に活性化しないように制御されているものと推測された。今後はこの可能性について検討する予定である。
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