研究課題
本研究ではガレクチン9を分泌するCD4陽性T細胞(ThGal-9)の性質解明と臨床応用の可能性を探ることを目的としている。疾患におけるガレクチン9の関与を探る目的でさまざまな疾患の患者血漿中のガレクチン9を測定したところ、HIV感染症においてガレクチン9が大量に分泌されていることが明らかとなった(AIDS Res Hum Retroviruses 2014 30:654-664)。HIVの主要なターゲットがCD4陽性T細胞であることは自明であり、また我々の過去の研究からガレクチン9を添加すると、HIVの感染と細胞内増殖が阻害されることが明らかとなっている(Blood 2012 119:4192-4204)。これまで自己免疫疾患を中心にガレクチン9分泌細胞の研究を進めてきたが、臨床現場でより求められているHIV感染症に照準を定め直し、この疾患で分泌されるガレクチン9とその意義について解明を進めた。現在のHIV感染症治療は、強力な抗レトロウイルス剤を組み合わせたHAARTであり、強い副作用はあるが、治療中の患者血漿にはHIVが検出されなくなる。しかしHAARTを停止するとたちまち血漿中HIVが急増し、患者はAIDSを発症して死亡する。これはHIVが患者のCD4陽性T細胞の遺伝子に潜伏・休眠しており、潜伏HIVにはHAARTは無効であるためだと考えられている。試験管内での実験の結果、ガレクチン9は潜伏HIVを目覚めさせると同時に、細胞が有する抗ウイルス酵素を発現させてHIVを不活性化することが示された。これはHIV感染症の根治につながる重要な発見である。一年後の特許出願を目指してデータを固めるべく研究を行っている。
2: おおむね順調に進展している
本研究において我々が注目したガレクチン9分泌細胞はCD4陽性T細胞であるが、この細胞はまさにHIVのターゲットである。これまでは、研究の蓄積が多い自己免疫疾患を中心に研究を行ってきたが、臨床現場でより重要度が高いHIV感染症に照準を移して研究を行った結果、新規なメカニズムが明らかとなってきた。
潜伏HIVを目覚めさせる方法の確立は現在最もホットな研究課題である。既存のHAARTと組み合わせることによってHIVの根治が可能になると考えられており、Shock and Kill療法として注目を集めている。様々な方法が試みられているが、未だ十分な作用は得られていない。分泌されたガレクチン9はCD4陽性T細胞に潜伏するHIVを目覚めさせるだけでなく、細胞の抗ウイルス酵素の発現を上昇させることも示された。これらの発見を強固にするために、様々な条件の検討を行い、特許出願に耐えるデータ作製を行う。
平成25年度の使用額が予定より大幅に少なくなったためである。具体的には当初予定していた方法を使わずして結果が得られたことと、同年に急に退職した助教より高額の試薬を受け継いだことである。また本年度はパートタイマーの人件費を本助成より支払う予定であったが、別の研究予算より支払うことになりその分も影響している。
分泌されるガレクチン9がHIV感染症の根治につながる可能性を示すデータが得られた。本年度はこの結果が間違いないことを調べることに集中し、特許出願を目指す。ガレクチン9を含む各種ガレクチンおよび別のレクチンをリコンビナントタンパク質として調製し、ヒトCD4陽性T細胞株における作用を抗ウイルス酵素の誘導を中心に調べる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
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