研究課題/領域番号 |
25460596
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
遠藤 雄一 福島県立医科大学, 医学部, 准教授 (20117427)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フィコリン (Ficolin) / 自然免疫 / 恒常性の維持 / レクチン / レクチン経路 / フィコリン欠損マウス |
研究概要 |
フィコリン (Ficolin) は、補体活性化経路の1つであるレクチン経路の認識分子として、感染防御などの自然免疫に働くと考えられている。本研究は、フィコリンが生体の恒常性維持において担う新たな役割とその分子基盤を明らかにすることを目的としている。本年度は、フィコリン欠損マウスの胚・胎児における異常の有無を調べた。その結果、12.5から14.5日齢のマウス胎児において骨の一部またはその周辺の軟骨に微細な異常を認めた。現在、三系統のフィコリン欠損マウス(フィコリンA欠損、フィコリンB欠損およびフィコリンABダブル欠損マウス)のそれぞれについて個体差を含め異常の確認を進めている。同日齢の野生型胎児の組織におけるフィコリンの産生を調べたところ、成体とは異なりフィコリンBが胎児の肝臓で発現していることを確認した。また、フィコリンAB欠損マウスの組織切片にフィコリンAまたはBのリコンビナント蛋白を加え、その結合を調べたところ、フィコリンBが骨周辺に結合することがわかった。同日齢の野生型マウス胎児においてレクチン経路の各成分の遺伝子発現を調べた結果、フィコリンと複合体を形成するセリンプロテアーゼMASPは発現していたが、認識分子であるMBLやMASPの短縮型蛋白であるsMAPやMAp44の発現は確認できなかった。このことは、フィコリンが胎児組織中でMASPと複合体を形成し、その恒常性維持に関与する可能性を示唆するとともに、胎児組織にフィコリンの標的分子が存在する可能性を示唆している。組織切片の活性型カスパーゼ3やTUNEL染色では、野生型と欠損マウス胎児の間に明らかな差はなかった。現在、アフィニティクロマトグラフィと質量分析を駆使して、胎児のホモゲネート分画中のレクチン経路の分子構成の解析とフィコリンの標的分子の単離を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予想していたように、野生型と比較してフィコリン欠損マウスの胎児に大きな組織異常はなかった。このため、胎児の全身にわたり、微細であるが確実な異常を探すことになった。この結果、三系統のフィコリン欠損マウスのそれぞれにおいて複数の胎児個体の組織学的解析が必要となり、少し時間がかかっている。また、胎児の組織からフィコリンの標的分子をアフィニティクロマトグラフィによって単離する操作は、これまで行なってきた成体マウスの組織や血清等を材料とした場合と比較し、多くの非特異的な分子が混入することがわかった。そのために、各精製段階において実験条件設定や対照実験が増え時間がかかっている。また、材料となるマウス胎児の作成にも時間がかかっている。一方、新たに導入された質量分析機の条件設定は順調に進み、高感度で正確な分析が可能な状態になった。組織学的な解析や生化学的な解析の一部で必ずしも順調とは云えない部分はあるものの、このような本研究の展開は、当初の計画の想定範囲内にあると考える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の解析を継続して、三系統のフィコリン欠損マウス胎児の表現型を確定させる。骨または軟骨にみられた異常が間違いなくフィコリン欠損マウスの表現型であるとわかった場合、これらの組織形成に働く可能性のあるタンパク質の発現を網羅的に調べ、フィコリン欠損マウスの分子レベルでの異常を明らかにする。また、異常を示す日齢の胎児RNAをDNAマイクロアレイ解析にかけ、フィコリン欠損マウスにおける遺伝子の発現異常を明らかにする。同時に、パスウェイ解析により、その作用経路を推定する。次に、この表現型にフィコリンあるいはレクチン経路がどのように関与しているのかを明らかにするために、胎児組織におけるフィコリン-MASP複合体の分子構成とその補体活性化能などの機能を調べる。これまでの解析により、フィコリンは発生の早期に発現し、フィコリンを含むレクチン経路の構成は成体とは大きく異なることが示唆されている。このことは、フィコリンが発生において胎児の恒常性維持あるいは組織形成に積極的に関与し、フィコリンが認識する特異な標的分子が存在することを意味する。前年度に引き続き、アフィニティクロマトグラフィと質量分析を用いて、マウス胎児の組織からフィコリンの標的分子の単離を試みる。標的分子と思われる分子が同定された場合、その分子が真にフィコリンの標的分子であることを示すために、リコンビナント蛋白を作製し、フィコリンとの結合実験、その後のレクチン経路の活性化や情報伝達など一連の生化学的解析を進める。
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