本研究は、フィコリンが生体内の自己分子を認識して内的環境の恒常性維持に働くことを明らかにするものである。とくに、獲得免疫が成立していない胎児期における役割や成体での自己白血球に及ぼす働きに注目し、その生理的意義と分子基盤の解明をめざしてきた。今年度はマウス胎児におけるフィコリン標的分子の特定を進めた。その結果、いくつかの膜タンパク質、受容体などの候補分子が得られた。この機能は、フィコリンB(マウスフィコリン1)に見られたが、フィコリンA(マウスフィコリン2)には見られなかった。フィコリンBは、これらの標的タンパク質の糖鎖、とくにシアル酸を認識することが明らかになった。フィコリンBは、胎児ではMASP-3と複合体を形成していることがわかった。しかし、標的分子の中でMASP-3の活性化を惹起する分子はまだ見つかっていない。一方、フィコリンBは細胞内タンパク質のアクチンを強く認識することがわかった。フィコリンBはアクチンのN末端アミノ酸のN-アセチル基を認識すると考えられた。この結果は、フィコリンBが、アポトーシス等で生じた細胞から露出した細胞骨格のアクチンを認識して,その排除に関与することを示唆している。さらに、フィコリンBは末梢T/Bリンパ球の一部集団、NK細胞や骨髄ミエロイド系細胞に結合し、ヒトM-フィコリン(フィコリン1)は末梢形質細胞様樹状細胞に結合することが明らかになった。両フィコリン1は、白血球培養細胞にも結合することから、培養細胞を材料として標的分子の単離・同定を試みた結果、いくつか候補分子か得られた。これらの結果は、フィコリン1が自己細胞表面の標的タンパク質を認識し、その移動、機能制御および排除などの内的環境の維持に関与していることを示唆している。これらの結果は、データベースを用いたパスウェイ解析やフィコリン欠損マウスのDNAアレイ解析からも支持された。
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