増殖因子やサイトカインと結合した受容体はその細胞質内領域でチロシンキナーゼの活性化がおこる。受容体自身のリン酸化チロシン残基は情報伝達分子の結合部となり、下流にシグナルを伝達する。この情報伝達過程におけるリン酸化以外の分子修飾について解析を進めた。
T細胞株CTLL-2細胞をインターロイキン-2(IL-2)で刺激した系をモデルした。昨年度までに、これまで知られているようなチロシンキナーゼJak1やJak3および転写因子STAT5のリン酸化だけでなく、これらの分子がリン酸化に数分遅れてアセチル化されていることを見出した。さらにSTAT5はアセチル化に依存して転写活性化領域が限定消化されていることも明らかにした。次にSTAT5のアセチル化に至る分子機構を解析した。IL-2受容体β鎖から発信されるアダプター分子Shcを介したMEK/ERK経路が核に伝達され、これに応答してアセチル化酵素CBPが核から細胞質へ局在変化していることを見出した。CBPはIL-2受容体に結合しJakやSTAT5をアセチル化していることが判った。STAT5やJaksのアセチル化がリン酸化に数分遅れることはCBPの細胞質輸送に要する時間であることが示唆された。IL-2依存性のERK活性による核ー細胞質輸送系が刺激され、CBPが核外へ輸送されることを示唆する結果も得られた。
サイトカイン情報伝達系において、これまで詳しく明らかにされてきたリン酸化カスケードに、細胞質アセチル化がクロストークしていることを部分的に明らかにした。これまであまり知られていなかった細胞質アセチル化が情報伝達系を制御する意義のある現象であると考えている。一連の結果を投稿中である。
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