研究課題/領域番号 |
25460606
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新田 剛 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 准教授 (30373343)
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研究分担者 |
岡田 季之 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 流動研究員 (10607328) [辞退]
為広 紀正 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 上級研究員 (80597881)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | T細胞 / シグナル伝達 / 胸腺 / 核 / Themis / 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、T細胞分化を制御する動作原理の解明を目的とし、TCRシグナル下流で作用すると考えられる新規分子Themisの機能解析を行う。初年度の研究から、Themisは末梢T細胞によるIL-2産生に必須であること、Themisの核局在は胸腺細胞の正の選択に重要な役割を果たすが、末梢T細胞のIL-2産生には関与しないことが示され、Themisが胸腺と末梢で全く異なる機能を担うことが示唆された。 Themis欠損マウスにおける非典型的T細胞分化について詳しく調べたところ、制御性T細胞の分化が有意に低下していた。一方、Themis過剰発現マウスでは制御性T細胞の分化と転写因子Foxp3の発現が増加していた。初年度に作成したThemis変異マウスの解析から、ThemisはAktおよびTGFbシグナル経路を介してFoxp3の発現を正に制御すること、その制御にはThemisのPRSおよびNLSが重要であることが明らかとなった。また、Themisがinositol 5’-phosphataseである SHIP1と結合することを見出した。SHIP1 inhibitor (3AC)を用いてSHIP1の活性を阻害すると、Themisによって亢進するAktのリン酸化、Foxp3の発現、制御性T細胞の分化が抑制された。以上の結果より、ThemisはSHIP1と結合し、Aktシグナルを介して制御性T細胞の分化を促進することが示唆された。 一方で、核内に存在するThemis-Grb2複合体については、hnRNP Cをはじめとするいくつかのタンパク質との結合が明らかになったものの、その意義は不明であり、機能解析は難航している。Themisと他のタンパク質との分子間相互作用の機序を理解するため、Themisの大量発現および精製系を確立し、X線構造解析に向けた結晶化を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Themis-Grb2複合体の機能解明を目的としたThemis-NESマウスやGrb2-FLAGマウスの作製が難航し、当初の想定通りの成果を得ることができなかった。一方で、Themisの制御性T細胞分化における役割について、新たな発見と進展があった。Themisが結合する分子としてSHIP1を新たに見出したほか、SHIP1がGrb2と構成的に結合することや、ThemisとSHIP1の結合がGrb2により阻害されることを示す予備実験結果を得ている。特に、Themis-SHIP1によるAktシグナルを介した制御性T細胞の分化促進経路が明らかになったことは大きな進展であり、現在論文発表の準備を進めている。また、SHIP1-Grb2-Dok1/2分子間相互作用が正の選択に関与するとの報告もあり、今後はThemisがどのように関与するのか研究を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
Themis-Grb2複合体と相互作用する分子の同定については、二年度目に予定していたゲノム編集法によるGrb2-FLAGマウスの作出が困難であることがわかった。本目的のためには、T細胞株へのウイルスベクターを用いた遺伝子導入によって対応するほか、Themisの分子構造を理解するためX線構造解析に向けた結晶化を進めている。しかしながら、核内Themis-Grb2複合体のT細胞選択における機能を解明するには、現在の技術と研究資源では困難であると考えられる。そのため、研究計画の一部を変更し、下記の通り、Themisによる制御性T細胞の分化制御に軸足を置いた研究を進める。 二年度目の大きな進展として、Themisと相互作用する分子としてSHIP1を新たに同定し、Themis-SHIP1相互作用が制御性T細胞分化に重要であることを見出した。Themisという共通の分子が、T細胞の正の選択と制御性T細胞分化の二つの局面でどのように使い分けられているのか、今後明らかにする必要がある。特に、Themis-SHIP1-Grb2の三者の分子間相互作用については、複合体形成の分子基盤と制御性T細胞分化におけるSHIP1活性制御の生理的意義の解明が重要である。これまでに作製してきたThemis分子内ドメイン欠失変異マウス、およびSHIP1-KOマウス、Grb2-CKOマウスを用いて、T細胞の正の選択、制御性T細胞の分化、細胞内シグナル分子の挙動、腸炎等を指標とした自己免疫への影響を精査する。
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