研究課題
近年、高機能かつ高額なシミュレータが多くの医学教育機関に導入されているが、これを用いた学習が必ずしも学習者のアウトカムを向上させていないと報告されている。3年間、計324名の医学科4年生を対象とした心臓診察シミュレータを用いた3時間の少人数授業において、2種類のテストの結果を詳細に解析した。1回目は、学生に2音に関する問題、過剰心音に関する問題、心雑音に関する問題であることを予め周知してからそれぞれを出題した。より臨床現場に則して出題される2回目では、2音、過剰心音、心雑音のどれに関する問題かを知らせずに無作為に出題した。1回目では、分裂なし、呼吸性分裂、異常な幅広い分裂の正答率は、それぞれ87%、86%、 93%であり、3音、4音、3音+4音の正答率は、73%、73%、67%、大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症の正答率は、89%、81%、78%、77%だった。2回目では、2音に関してはそれぞれ51%*、59%*、60%*、過剰心音はそれぞれ49%*、65%、 42%*、心雑音に関してはそれぞれ95%, 71%, 78%, 67%だった(*P<0.0001)。すなわち、実際の臨床現場に近い2回目のテストで正答率が低下した。医学科4年生に対する3時間1回の聴診実習では、充分な心臓聴診能力の獲得は困難であった。平成26年度は、2種類の心臓弁膜疾患のカラードップラー画像をみながら、心雑音の聴診実習を行うという介入を行ったが、これらの疾患の正答率は改善しなかった。一方、シナリオに基づく救急患者の治療のトレーニングを高機能患者シミュレータを用いて行い、参加者の事後評価では、トレーニング参加により薬物の選択や使用法で改善が見られていた。
3: やや遅れている
平成26年度は、心臓聴診実習に置いて2つの弁膜疾患のカラードップラー心エコー図を動画としてタブレット端末を用いてみながら聴診のトレーンングを行うという介入を行ったが、以前の結果と比較して有意な正答率の上昇は得られなかった。すなわち、臨床の現場により類似した状況の2回目の聴診テストの結果を介入により改善することはできなかった。さらなる有用な介入方法を検討する必要があり、この点において、達成度はやや遅れていると判断される。
より低学年の希望する医学科学生を対象として、課外の時間を利用して心臓聴診シミュレータを用いたトレーニングを行う。トレーニングを繰り返すことの意義やシナリオを導入することの意義を検証する。また、医学科4年生の3時間という限られた実習時間の中で、タブレット端末と心エコー図のカラードップラー動画像を含めたさらなる介入を行い、アウトカムの改善が得られるかどうかを検証する。また、シナリオに基づいた救急関連のトレーニングにおいては、その事後の変化に関する評価をより簡潔かつ普遍的な質問事項を駆使して実施する。これにより評価アンケートの回収率を上げ、その信頼性の向上を図る。また、心臓聴診シミュレータを利用した少人数授業に関する論文をまとめて医学教育関連の英文学術誌に投稿する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)
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