研究課題/領域番号 |
25460620
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田倉 智之 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教授 (60569937)
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研究分担者 |
任 和子 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40243084)
筒井 義郎 甲南大学, 経済学部, 教授 (50163845)
吉田 俊子 宮城大学, 看護学部, 教授 (60325933)
杉原 茂 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, その他 (60397685)
照沼 則子 順天堂大学, 医学部, 教授 (60574621)
中西 健 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (70217769)
上月 正博 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70234698)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 行動経済学 / コンプライアンス / アドヒランス / 服薬 / 運動療法 / 腎不全 / インセンティブ / ケア |
研究実績の概要 |
平成26年度では、次のような研究計画書の立案と倫理委員会の承認手続きを実施した。研究方法については、前向き/非ランダム/オープンの研究とした。対象患者は、保存期/末期腎不全の70歳未満の腎不全患者(除外規定:癌等の全身疾患、認知症等の神経疾患)とした。対象薬剤は、ホスレノール、セベラマー、炭酸カルシウム等のリン吸着剤とした。エンドポイントは、主要エンドポイントを「行動変容量」として、服薬数量の変位(単位;服薬適正数/理想服薬数)とした(カプセル/薬包等の観察;基本は処方BOX管理型)。および管理マトリクス(CaとP)のスコア変動(動機付けにも)とした。その他、因子解析として 層別化した構造解析を実施する。交絡因子として、達成された血清リン濃度・尿中リン濃度、カルシウムおよびPTH濃度、その他については、炎症や栄養の状態(血清アルブミンやCRP)などを要検討の項目とする。腎マーカーは、各検査値(Cr、eGFR、BUN、蛋白尿、K、P、Caなど)を収集する。 さらに、服薬状況の実態調査とインセンティブへの関心についても実施した。対象の平均年齢は、65.8才で家族構成は1.7人、就業率は34.5%であった。腎不全罹患率および透析導入率は、9割以上であった。服薬状況のコンプライアンスについては、全て服薬群が73.3%となった。飲み忘れの要因としては、失念が20.0%で最も高かった。行動変容に対する動機づけへの関心は、「インセンティブを用いた運動療法の無償提供」の関心あり群が55.6%と最も高かった。一方、「人間ドック等の周辺サービスの提供」は、関心あり群が33.3%と最も低かった。インセンティブの期待される効果については、「インセンティブを用いた運動療法の無償提供」で期待が大きいと回答した群が、42.2%と最も高かった。一方、「その他のインセンティブ(図書券、商品券、クーポン券等)」で期待が小さいと回答した群が、17.8%と最も低かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査票の設計等として、次の内容については概ね達成できている。調査項目は、SESおよび服薬コンプライアンスと時間選好率等とする。また、保有効果や各バイアスを改善する可能性のある健康価値/経済負担を算出するための要素(医療費や期待効用値等)も収集する。これらの観察は、アンケート方式またはインタビュー方式(パンフレットも準備)の調査票にて行う。一部の対象者については、服薬コンプライアンスの検証を目的に血中濃度を測定する。なお、服薬コンプライアンスの定義は、一定期間中の服用量/処方量とする。 服薬の実態調査については、次の内容について概ね推進中である。服薬の実態は、服薬コンプライアンスと服薬固執性(遵守の継続日数)および指導等の介入について、郵送方式等による自己申告アンケート(バイアスや抵抗感に配慮し回収は研究事務局が実施)で行う。なお、本研究は臨床研究(前向き比較試験;診療自体の介入は無し)として実施する。費用は、外来診療全体の診療報酬請求(自己負担含)を医療機関から収集する。なお、処方に関わる疾病機序との関係が強い特定の大きなイベントについては、前述の自己申告アンケートの回収時に入院に関わる診療報酬請求(発行明細書)を患者から収集する。 行動変容の観察として、次の内容についても計画通りに進捗している。改善する健康価値や増加する経済的負担の訴求、またはインセンティブ(例;専属指導、優先予約等)の変位に対する服薬行動の感度を観察する。なお、これらの観察は、専門看護師等が患者教育の一環として実施する。データの収集は、週3回の外来透析(HD)の通院時に実施する。対象者の分類は、前述のコンプライアンスに影響を与える要素に配慮しつつ、複数のパターン(グループ)を設定する。効用や利得は、支払意思額(WTP)や受取意思額 (WTA)にて算出を行う(服薬実態のアンケート)。
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今後の研究の推進方策 |
解析と傾向整理(テーマ1)について、得られたデータは、期待効用理論等を踏まえつつ価値関数の検討にも資するよう、行動変容の実態・変位と各種要因(説明変数)との関係を、共変量や交絡要因に留意しながら整理を行う。各調査の設計等(テーマ2)について、基本的には、テーマ2もテーマ1の診療行為と疾病機序を対象とする。調査項目は、テーマ1で整理がなされた平均的な服薬状況や行動変容の動向、国民の互助精神による経済負担の実態等が提供されることに対するアドヒアランスへの影響を観察する。評価のアウトカム指標は、服薬コンプライアンス、セルフエフィカシー尺度、時間選考率等の変位とする。服薬の実態調査(テーマ2)について、服薬行動の実態は、テーマ1の結果を有効活用する。ただし、必要に応じて服薬固執性(遵守の継続日数)および教育介入や各種訴求等に対する服薬コンプライアンスの感度を観察する。行動変容の観察(テーマ2)について、グルーピングした各群における服薬状況の平均と対象者の状態との乖離、またはグループ間の服薬状況の差異を提供(開示)すること等によって、集団の服薬行動の変化を観察する。データの収集は、HDの通院時のインビュー方式またはアンケート調査票の郵送方式にて実施する。対象者のグルーピングは、前述のコンプライアンスに影響を与える要素に配慮しつつ、複数の集団を設定する。集団間の差異の統計学的評価は、傾向スコア等の手法選択も検討する。 最後に、医療分野における行動変容の要因を構造化しつつ、新たなヘルスプロモーションの要件を検討する。すなわち、服薬コンプライアンスを時間選好率/危険回避度、期待効用、医療費、SESおよび、改善する健康価値や増加する経済的負担の訴求、またはインセンティブの提供量で説明する方法を、多変量解析を応用しながら考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
執行金額の差分の内容は、主に、データ収集のための諸経費とデータ解析に伴う人件費、および関連する会合の旅費・会議費などが考えられる。特に、改善する健康価値や増加する経済的負担の訴求、またはインセンティブ(例;専属指導、優先予約等)の変位に対する服薬行動の感度を観察、さらに服薬固執性(遵守の継続日数)および教育介入や各種訴求等に対する服薬コンプライアンスの感度を観察および行動集団の服薬行動の変化を観察については、推進が十分ではなかった。以上から、これらに関わる調査項目の一部については、臨床計画書の作成と倫理委員会の手続きの遅れによって平成26年度中に展開することが出来なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度においては、改善する健康価値や増加する経済的負担の訴求、またはインセンティブ(例;専属指導、優先予約等)の変位に対する服薬行動の感度を観察、さらに服薬固執性(遵守の継続日数)および教育介入や各種訴求等に対する服薬コンプライアンスの感度を観察および行動集団の服薬行動の変化の観察などを中心に、当該予算の執行を予定する。また、服薬コンプライアンスを時間選好率/危険回避度、期待効用、医療費、SESおよび、改善する健康価値や増加する経済的負担の訴求、またはインセンティブの提供量で説明する方法を、多変量解析を応用しながら考察するにあたり、当初の使用計画にそって執行を行う。
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