本研究は、日頃医療の現場で見られる乳幼児の「医者嫌い」という拒否反応のメカニズムを解明し、「医者嫌い」を起こさない小児の診療法を確立することを目的としている。医師診察時の状況を再現し、医師に対する乳幼児の行動について実験的に検討した。3年間で67名の乳幼児について調査した。 最終年度はビデオ解析を詳細に行い、泣いた乳児と泣かなかった乳児の2群に分けて調査した。以下のような結果を得られた。①90%以上の乳幼児は初めての医師を見た瞬間は注視し、脈拍は下がった。Negativeな表情をしていた児は全体の17%から3%に減少し、泣いていた乳児は3%から0%になった。②聴診時に不機嫌になり泣き出す乳児が20%以上あった。③聴診時には、泣いた児の群は心拍が上がり、泣かなかった群は低下した。④泣いた児の77.8%、泣かなかった児の92.7%が聴診器を注視した。泣いた児は聴診器を見た直後から心拍が増加し、泣かなかった児の心拍は下がった。以上により、乳児は白衣を着た医師には興味を持っていると考えられる。聴診という医療行為が乳児の泣き出す要因の一つであることが示唆された。また、心理生物学的な気質モデルに基づく乳児の行動のチェックリストである乳児行動調査票IBQ(Infant Behavior Questionnaire)を使い、質問票と実験時の行動との関連をみた。今回の結果では、質問票と乳児の行動の間に有意な関係は認められなかった。 さらに新しい診察法の試みとして、聴診時の乳児の体の向きを変えて検討した。聴診時乳児の背面から診察する、診察台に寝かせる、通常通り正面から聴診する場合に分けた。その結果、背面から診察する方法は、診察台に寝かせた場合、あるいは正面から聴診した場合に比べ泣くケースは少なくスムーズに診察できた。 これらのデータから、「医者嫌い」を解消し、乳児にとってストレスの少ない診察法に必要な研究成果が得られた。
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