研究課題
基盤研究(C)
肥大型心筋症は若年者突然死の原因として最も頻度が高く、また一部は中年以降に収縮不全を呈して心不全を合併する。研究代表者らのこれまでの研究成果に基づき、収縮不全を合併する症例の予測については、遺伝子解析により可能となった。しかしながら致死性不整脈については未だ予測は困難であり、今後は致死性不整脈の予測因子の解明が重要となる。平成25年度はこれまでに集積した肥大型心筋症400家系について、① 肥大型心筋症の発症に第一義的に関与する心筋サルコメア遺伝子解析を進め、②致死性不整脈検出例に関しては、臨床像を第二義的に修飾するQT延長関連遺伝子を中心とした不整脈関連遺伝子の重点的な解析を進め、致死性不整脈の発症を予測して早期加療に結びつけること、を目的として研究を開始した。最終的には、解析・検出したサルコメア遺伝子およびQT延長関連遺伝子の変異に基づき、薬物治療・非薬物治療の治療体系を確立することを目的としている。本研究に関連して、心臓肥大および肥大型心筋症の患者がどの程度の頻度で種々の不整脈、心不全、心臓突然死などを引き起こすかという課題を、東京大学、北海道大学、鹿児島大学、高知大学、山口大学、国立循環器病研究センターの研究者と協力して解明した。具体的には、256名の心臓肥大患者を集積・登録して遺伝子解析と予後調査を行った。256名の患者の過半数は、金沢大学および関連施設の患者である。その結果、サルコメア遺伝子変異により引き起こされた肥大型心筋症患者(G群)では、高血圧による心臓肥大患者(H群)やサルコメア遺伝子変異も高血圧も有さない肥大型心筋症患者(NG群)と比較して,より多くの不整脈や心不全が発生することを確認した。さらに並行して、遺伝子変異未検出の一部の症例において、次世代シーケンサーを使用して遺伝子解析を進めつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
心臓肥大および肥大型心筋症の患者が種々の不整脈、心不全、心臓突然死などを合併する頻度を、金沢大学を中心とした合計7施設の研究者と協力して調査した。具体的には256名の患者を、(1)サルコメア遺伝子変異を有さず高血圧により引き起こされた心臓肥大患者(H群)、(2)サルコメア遺伝子変異により引き起こされた肥大型心筋症患者(G群)、(3)サルコメア遺伝子変異も高血圧も有さない肥大型心筋症患者(NG群)、の3群に分けて、1年後の時点での各種不整脈の発症や心不全による入院などの発生について解析した。その結果、サルコメア遺伝子変異により引き起こされた肥大型心筋症患者(G群)では、高血圧による心臓肥大患者(H群)やサルコメア遺伝子変異も高血圧も有さない肥大型心筋症患者(NG群)と比較して,より多くの不整脈や心不全が発生することを確認した。これらのデータを平成25年度中にまとめて権威ある欧文誌:J Am Coll Cardiol Heart Failに投稿した所、筆頭論文として掲載された。同時に、遺伝子変異未検出の一部の症例において、次世代シーケンサーも使用して解析を行った。具体的には、既に候補遺伝子として挙がっている21遺伝子を総括的に検索するターゲットリシーケンス、未知の遺伝子も含めた解析であるエクソームシーケンスを施行して、解析を進めつつある。心臓肥大や肥大型心筋症の分野での次世代シーケンサーの応用は、本邦では無論のこと、欧米諸国を含めても先進的な試みである。
今後も肥大型心筋症400 家系について、① 不整脈に強く関与する原因および修飾遺伝子変異・多型を解析すること、② 検出された遺伝子変異を導入した哺乳動物細胞を作製し、確立された手法で細胞電気生理学的検討を行うこと、③ 変異に伴う細胞機能変化を薬理学的手法で正常化する方法を検討すること、により進める。遺伝子解析の概要は以下のとおりである。白血球よりDNAを抽出し、PCR法にて遺伝子の増幅を行う。その後の手順として、高分解融解曲線分析(Hi-Res Melting: HR-1)を用いて、ヘテロデュプレックスと野生型の融解曲線のわずかな違いを検出する。具体的には専用のガラスキャピラリーでPCR を行い、それを専用装置に入れて解析する(所要時間:1検体当たり2〜3分)。次に多検体(96 検体)版装置:Light Scanner 装置を用いて、所要時間を96 検体当たり30 分程度に短縮して解析を進める。平成25年度の段階で解析は既に軌道に乗り、解析スピードは加速度的に高まっている。今後、平成26年度は不整脈発症の可能性が高い肥大型心筋症例において心筋リアノジン受容体遺伝子変異を検索すると同時に、QT 延長関連遺伝子変異を検索する。また、平成25年度に試行した次世代シーケンスも進めていく。具体的には、既に候補遺伝子として挙がっている遺伝子を総括的に検索するターゲットリシーケンス、未知の遺伝子も含めた解析が可能であるエクソームシーケンスを進めていく。これらの次世代シーケンスも順調に行うことができるようになったため、平成26年度も次世代シーケンス施行のために研究費を使用する。この様に研究推進に当たってのインフラは整備されており、効率良い成果達成が期待される。
心筋症患者からのDNA抽出、PCR、遺伝子解析のための消耗品および試薬品代のほか、次世代シークエンサーおよびエクソームシーケンスを行うにあたって、効率的な予算執行を行ったところ端数が生じた。平成25年度と同様に平成26年度も次世代シーケンスを行う予定であり、この費用に充てる予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
JACC Heart Fail
巻: 1 ページ: 459~466
10.1016/j.jchf.2013.08.007