研究課題/領域番号 |
25460650
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
塚元 和弘 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (30253305)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | うつ病 / 抗うつ薬 / 治療感受性遺伝子 / うつ病の病因論 / 炎症性サイトカイン / 活性酸素種 / ゲノム創薬 / 遺伝子診断 |
研究概要 |
うつ病の治療では薬物療法と精神療法が同時に行われ,薬物療法の第一選択薬である第2世代抗うつ薬の治療効果に患者間で個人差が認められる。第2世代抗うつ薬(SSRI/SNRI)の単剤治療で,2ヶ月後の短期治療効果は約60~70%であるが,1年後の予後となると,約1/3は寛解し,約1/3は再発して増悪と寛解を繰り返し,残りの約1/3は難治性を示す。この個人差を規定している治療感受性遺伝子あるいは治療抵抗性遺伝子を同定するために,炎症性サイトカインのシグナル経路や活性酸素種に関連する20個の候補遺伝子を選出し,その遺伝子内に存在する計90個の一塩基多型を用いた症例-対照研究を行った。本研究に対して同意を得たうつ病患者74名を対象とした。74名を治療開始2ヶ月後の治療効果の有無で治療感受性群と抵抗群に分けた。 4つの遺伝子で統計学的有意差を認めた。炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子の受容体TNFRSF1Bのrs1061624でG/G遺伝子型を持つ患者は治療抵抗群に多く,約6.7倍治療抵抗性を示した。一方,脳由来神経栄養因子であるBDNFのrs2049046 SNPでT/AあるいはA/A遺伝子型を持つ患者は約4.9倍,同じ遺伝子のrs6265 SNPでG/AあるいはA/A遺伝子型を持つ患者は約6.9倍治療感受性を示した。同様に,線維芽細胞増殖因子の受容体FGFR1のrs6474354でC/TあるいはT/T遺伝子型を持つ患者は約7.6倍治療感受性を示した。逆に,FGFRの細胞内シグナル伝達分子であるFRS3のrs3804281でT/T遺伝子型を持つ患者は約14.3倍治療抵抗性を示した。 今後,同定した遺伝子の機能解析を行い,そのシグナル伝達経路を含めた新しい病態を解明して新規治療薬の標的分子を同定する。さらに,バイオマーカーに用いて遺伝子診断法を開発し,個別化治療へつなげたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年間で52個の候補遺伝子を解析する計画のうち,今年度に20個の遺伝子(90個の一塩基多型)を解析した。ほぼ予定通りの進行状況であった。しかし,第2世代抗うつ薬で単剤治療を受けた200名のうつ病患者を対象とする予定であったが,今年度に114名しか同意を得ることができず,さらに同一の第2世代抗うつ薬の単剤治療となると対象患者が激減し,74名になったことは反省材料の一つである。うつ病患者から同意を得ることの難しさを痛感した。 また,治療効果判定が治療開始2ヶ月後の時点での解析しかできなかった。患者によって治療開始が異なるため,同意を得たうつ病患者の長期予後(治療開始1年後)の結果が出ていないからである。 但し,解析した20個の候補遺伝子の中で,4つの治療感受性遺伝子あるいは治療抵抗性遺伝子を同定できた。その効率の高さに加えて,腫瘍壊死因子受容体と脳由来神経栄養因子および線維芽細胞増殖因子受容体の3つのシグナル伝達経路が治療効果に関与していることを明らかにしたことは評価できる。これらのシグナル伝達経路が第2世代抗うつ薬の薬理効果に関与する可能性を示すもので,新たな治療薬の標的分子となり,新しい作用機序による新規治療薬の開発が期待できる。 今年度に同定した遺伝子の機能解析を同時並行する予定であった。相関を認めた5つの一塩基多型のin silico解析と発現ベクターへの組み込みまでは今年度に実施できた。だが,一塩基多型による遺伝子発現の変化や下流へのシグナル伝達の影響およびmicroRNAsの同定まで完遂できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 連携研究者および研究協力者と協力して,第2世代抗うつ薬で単剤治療を受けたうつ病患者から同意を得て,研究対象者数を増やす。研究計画書通りに200名の同意をめざす。 (2) 残り32個の候補遺伝子に,治療効果と相関した3つのシグナル伝達経路内の遺伝子を候補遺伝子に追加して多型解析を続け,複数の治療感受性遺伝子や治療抵抗性遺伝子を同定する。 (3) 同定した治療感受性遺伝子や治療抵抗性遺伝子の機能解析とシグナル伝達経路の解明(パスウエイ解析)を行う。解明した遺伝子機能によって,治療感受性や治療抵抗性の病態の分子機序を解明する。同時に,新しい病態からゲノム創薬(分子標的治療薬)につながる標的分子を同定する。 (4) 同定した複数の治療感受性遺伝子や治療抵抗性遺伝子の遺伝子多型がお互いに独立して治療効果や治療抵抗性に寄与しているかを多変量解析で検証する。続いて,独立していた遺伝子多型を複数組み合わせた相対的危険度をオッズ比で表す。さらに,遺伝子多型をバイオマーカーに用い,高感度で高特異度な遺伝子診断法を開発する。 (5) 新規に開発した遺伝子診断法を用いて,50例の新規うつ病患者を対象にコホート研究を行い,2ヶ月後と1年後の治療効果をエンドポイントに遺伝子診断法の有用性を検証し,個別化治療に応用する。
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