オピオイド鎮痛薬の薬効と副作用の出現には大きな個人差が存在しており、μ受容体遺伝子(OPRM1)多型が一部関与しているが、その他、COMT(catechol-O-methyl transferase)の遺伝子多型の関与が示唆されている。特にG1947A (Val158Met)の変異が影響を及ぼすことを示唆する報告がある。即ち、G1947Aの変異を有すると酵素活性がホモ変異群ではホモ野生型群に比して3分の1から4分の1程度に低下するとされ、このためドパミンの代謝が低下し、代謝産物であるエンドルフィンの生成が阻害されることから痛覚の感受性が上昇することにより、オピオイドの薬効にも変化を生じることが示唆されている。しかしこの変異がオピオイドμ受容体の部分作動薬であるブプレノルフィンの薬効についても影響を及ぼすか否かは未だ明らかでない。そこで今回我々は、これを検討するための予備的な試験を行った。 対象は健康成人で、G1947A変異の野生ホモ(GG)型2名、ヘテロ(GA)型6名、変異ホモ(AA)型2名について、ブプレノルフィン塩酸塩を0.001mg/kg体重で静注し、投与後6時間まで温冷痛覚計による痛覚閾値の評価を行った。結果はGG群でGAおよびAA群に比し痛覚閾値が上昇し、ブプレノルフィンによる鎮痛効果がGG群で大きいことを示唆するものであった(論文作成中)。我々は162名の日本人サンプルについてG1947A変異の分析を行い、その結果はGG型48.1%、GA型44.4%、AA型7.4%であり、Aのアレル頻度は29.6%であり、白人より低頻度であるが変異ホモ型も稀な多型ではないことが確認された。今後のオピオイドμ受容体の完全作動薬及び部分作動薬も含めたオピオイドの個別化医療において、オピオイドμ受容体に加えて、COMT遺伝子多型を考慮することは重要であると考えられた。
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