抗不整脈薬ベプリジルは優れた臨床効果を発揮する反面、QT延長に伴う致死性不整脈を来たすことがあり問題となっている。これまで研究代表者らは基礎研究により、α-リポ酸が急性白血病治療薬である亜ヒ酸の腎毒性や心毒性(QT延長)を予防・軽減することを見出し、その機序として抗酸化作用やキレート作用が関与することを明らかにした。そこで本研究では、基礎研究および臨床試験により、α-リポ酸がベプリジルによるQT延長を予防・軽減することができるか否かを明らかにすることを目的とした。 まず、ベプリジルによるQT延長を評価できるモルモットモデルを確立した。このモデルを用い、α-リポ酸は前投与することにより、用量依存的にベプリジルによるQT延長を軽減できることを明らかにした。一方、α-リポ酸はベプリジルの心拍数抑制作用は軽減しなかったことから、抗不整脈効果に対しても抑制していないことが示唆された。 次に、α-リポ酸がベプリジルによるQT延長を軽減する機序を検討した。培養心筋細胞を用いた実験では、ベプリジルは細胞死を惹起することなしに活性酸素を増加させ、α-リポ酸はその活性酸素の増加を有意に抑制した。さらに、動物モデルにおいては、抗酸化作用のあるα-トコフェノールはα-リポ酸と同様にベプリジルによるQT延長を軽減した一方、キレート薬であるBALにはそのような効果は認められなかった。したがって、α-リポ酸のQT延長軽減作用は、少なくとも一部はその抗酸化作用を介してもたらされることが示唆された。 本研究の成果は、ベプリジルの安全性を高め、多くの患者への使用を可能にすることから、不整脈治療の向上に大きく寄与するものと期待される。
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