研究課題
ジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異によりジストロフィンが欠損するデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者の約10%は同遺伝子の重複変異により発症している。アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いて,同遺伝子のフレームシフト変異をインフレームに修正するエクソン・スキップの治療研究が進んでいるが,今のところ対象の多くはエクソン欠失変異であり,重複変異への適用可能性は十分に検討されていない。本研究は重複変異DMD遺伝子のエクソン・スキップによるジストロフィンの発現回復について検討し,新規治療法の開発を目指すものである。研究期間の2年目は,前年度に取り組んだ効果的なスキッピング活性を有するAON配列の探索結果を受けて,実際にモルフォリノで合成したAONを患者細胞に導入して検証を行った。その結果DMD遺伝子エクソン8/9重複を有する細胞に対してエクソン6/7/8を標的としたAONの組み合わせを導入したところ,同エクソンの複数スキップを誘導することに成功した。しかしmRNA上でのスキップは確認できたものの,タンパク質レベルでの再現性あるジストロフィン発現については至っておらず,現在これを解決する手法についての検討を行っている。以上のように,複数エクソンのマルチスキップによるエクソン重複変異のフレームシフト変異の修正という目標については達成できたが,そこから導かれるジストロフィンタンパクの安定的な発現までは至らず,次年度はこの点について再現性を得ることを目標としている。
2: おおむね順調に進展している
本年度は患者細胞を用いたエクソン・スキップの解析という点では,一部目標を達成することができた。具体的にはDMD遺伝子の8/9重複変異を有する細胞では,タンデム変異として出現する2つ目のエクソン8の内部に生じるフレームシフトにより,ジストロフィンタンパクの翻訳は停止するが,隣接するエクソン6/7/8のマルチスキップにより,エクソン5がエクソン9に接続してフレームシフトは解消される。この仮説に従い,エクソン6/7/8を標的とした複数AONの同時投与を行ったところ,mRNAのシーケンス解析にてエクソン5と9が連結していることが確認された。しかしながらこのインフレーム化したmRNAから翻訳される短縮形ジストロフィンは,いまのところ再現性を持って検出されていない。以上の課題はあるものの,本年度は目標としていた重複変異を有するDMD患者細胞を用いた解析を実施し,mRNAレベルでのインフレーム化を確認できたことから概ね順調に進展しているものと評価できる。
上述したとおりタンパクレベルでのジストロフィン発現についてはいまのところ再現性の問題を抱えている。この原因としてはウェスタンブロットにおける検出系の問題と,安定してマルチエクソン・スキップを誘導するためのAON導入手法の最適化不足の両方が考えられるため,この両面から現在検証を進めている。一つの方策としては細胞導入効率に優れるvivo-morpholinoをAONとして使用することが考えられるため,現状の配列を再合成することも検討している。
消耗品購入の際に予定額と納入価格の差額が生じたため。
次年度の物品費に充当する。
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