研究課題
基盤研究(C)
本研究の本年度の予定は(1)新規バイオマーカー物質の探索、(2)当該物質の単離、であったが研究協力者から提供された入院患者24時間蓄尿検体(17検体、合計31.6L)を用いて(1)(2)を同時に進めた。第1段階のターゲット物質の抽出では予備実験で用いた逆相担体の固相抽出をスケールアップすることに成功し、固相吸着物の溶出溶媒の極性を段階的に変えることによりターゲット物質の大まかな分離も行うことができた。この段階で得られたターゲット物質を含む抽出画分重量は12.4gであった。物質の探索・分離には当初予定していた酵素免疫測定(ELSIA)の反応性を指標として用いるのでは結果が判明するまでに時間が掛かるため、予備実験で得られていた質量分析データを応用して探索指標とした。第2段階の分離・精製ではオープンカラムを用いた逆相クロマトグラフィーを行い、さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分離を進めた。HPLC分離ではターゲット物質の検出をリアルタイムに行うことが不可欠であったが、通常の紫外線吸収検出では当該物質の物性(紫外線吸収波長)が不明なため、検出方法の改良を検討した。その結果多少の損失を伴うものの分離カラムからスプリッターで分岐した先を質量分析装置に接続して検出する方法が確実であると判断し、それを用いた。現在は分析用のカラムを用いたHPLC分離条件が定まったところであり、一部分離を進めたが分取カラムを用いてスケールアップする必要があるため、準備を行っている。
3: やや遅れている
当初予定ではターゲット物質の特定と単離が完了する予定であったが、分離を進めたものの完了までには至っていない。その理由として(1)第1段階の抽出で予想外に時間が掛かったこと、(2)HPLC分離における検出法の検討、(3)実験研究施設の改修・新築、が挙げられる。(1)第1段階の抽出で予想外に時間が掛かったこと:予備実験において少量サンプルの抽出は既製品の固相抽出カラムを用いてスムーズに行えたが、大量サンプルに対しては既製品では対応できず、カラムの設計・製作から行わなければならなかった。また、検体が予定量に達するまでに時間を要した。(2)HPLC分離における検出法の検討:HPLC分離ではリアルタイムに物質の検出を行う必要があるが、物質が特定されていないため通常の紫外線吸収法が用いることが難しいため、検出法の検討に時間を要した。(3)実験研究施設の改修・新築:本研究の申請時には予定に無かった所属機関の実験研究施設の改修・新築が発生し、それに伴う実験場所や研究機器類の移設で実験が滞った。
本研究開始時点で予定に多少の遅れが発生することが予想されたため、2つの予定事項を同時に進めた。これにより大幅な遅れを回避できたが、今後はさらに進行速度を速めることに努める。また、同時にターゲット物質の完全単離を行わないで化学構造解析や定性解析を行う方法を検討しているところである。具体的には質量分析を用いてある程度の化学構造が推定されたところで、可能性のある物質を化学合成し存在を確認する方法であり、同時進行が可能と考える。最終的には単離と化学合成による構造確認する予定であるが、この方法はそれを先取りするかたちになり予定を短縮させられる可能性がある。それが順調に進めばその後は予定通り物質の測定法の開発、患者における定量・評価がスムーズに行えるものと期待する。
次年度は化学合成や物質の測定が始まる予定のため、それに関わる試薬や消耗品類の購入が増えるため。また、物質の分離・精製法の改善も必要になることも予想される。試薬・消耗品類に70~80万円ほど計上し、旅費には20~30万円程度。その他共通機器使用料や分離・精製法改善に必要な備品類の購入に残額を充てる予定である。
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Annals of Clinical Biochemistry
巻: 50 ページ: 450-456
10.1177/0004563213476272