最終目標である原発性アルドステロン症の鑑別に関わる新規バイオマーカーの探索について、前年度までにターゲット物質の単離が成されず遅れが生じていた。それは試料中の含有量がかなり少ないことと、予想以上に分離が困難な夾雑物が多かったことが要因であった。本年度は分離・精製が進んだ状態の試料を用いて各種分析を行い、ターゲット物質の化学構造を推測し化学合成によって物質の同定を試みた。衝突誘起乖離反応を用いた質量分析によってターゲット物質はこれまでにアルドステロン産生腺腫のマーカーとして研究してきた18-ヒドロキシコルチゾール(18-OHF)に似たシグナルパターンを示すことが分かった。また、それらのイオンシグナルが全体で2つずつ大きく検出され、詳細な構造解析によって18-OHFのステロイドA環の一部が水素還元された物質が予想された。可能性のある2種の物質の合成を行い、ターゲット物質との比較を行った。結果として2種ともターゲット物質に対して質量分析のシグナルパターンはほぼ一致したものの、高速液体クロマトグラフィー分析の挙動が異なっており同定には至らなかった。 これまでに得られた分析情報からターゲット物質の定量分析法を検討し、原発性アルドステロン症を含む高血圧患者の尿検体を測定したところ、アルドステロン産生腺腫の症例で他の症例(本態性抗血圧、両側副腎過形成)に対して高値傾向にあることが分かった。しかしながら集められた症例数が少なかったことや物質の化学構造が明らかになっていないため絶対量が決められないことなどから、今後更なる実験・研究が必要であると考える。
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