研究課題/領域番号 |
25460670
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
植木 重治 秋田大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60361234)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 好酸球 / アレルギー / 炎症 / ETosis / アポトーシス |
研究概要 |
難治性喘息、Churg-Strauss症候群(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)、好酸球性肺炎、好酸球増多症候群、好酸球性食道炎、好酸球性中耳炎・副鼻腔炎といったステロイド抵抗性の好酸球性炎症は、今なお解決されない問題になっている。好酸球は血流から血管内皮細胞へ接着し、炎症部位に遊走運動により集積し、局所で活性化してエフェクター細胞として機能するとともにその運命(生・死)を決定している。 我々は炎症組織で認められる好酸球の脱顆粒を伴う細胞死(lytic degranulation)の本態を明らかにするために、ハーバード大学との共同研究により組織中の好酸球の形状を解析した。この結果、lytic degranulationをきたした細胞は、細胞膜の破綻・核膜とヘテロクロマチンの消失が認められることがわかった。さらに、固相化した免疫グロブリンや血小板活性化因子等により、高純度分離したヒト好酸球を刺激した場合、NADPHオキシダーゼ依存的にlytic degranulationを誘導できることを見いだした。これらのことから、lytic degranulationが、近年Extracellular trap cell death(ETosis)と呼ばれる非アポトーシス細胞死とほぼ同一のものであることを解明し、これまでの知見を論文として報告した。このことは、アレルギー性炎症疾患における長年の謎であったlytic degranulationの形成を明らかにするとともに、診断・治療につながる新しい概念として重要である。 また、好酸球におけるケモカイン・サイトカイン・ビタミン誘導体などによる受容体発現変化・細胞の遊走・接着・生存のメカニズムを、ヒト分離好酸球を用いて明らかにし、論文として報告している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画は概ね順調に進展している。本年度の目標であったlytic degranulationの本態を明らかにしたこと、その分子メカニズムに活性酸素の産生(NADPHオキシダーゼ)が関与していること、遊離した顆粒の特性についても検討を加えることができた。また、好酸球の生存期間の変化や細胞機能調節についても新たな知見を報告することができた。 一方で、ETosisにおける活性酸素の産生に伴って引きおこされると考えられるシグナル蛋白のリン酸化やターゲット分子は不明である。これはETosisとアポトーシスという二つの能動的な細胞死に至る経路の差異を明らかにする上でも重要であることから、さらに検討を加えていきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトの好酸球を用いる利点は病態に直結できることであり、引き続きヒト末梢血から高純度分離した好酸球による検討を進める。他の細胞死との比較を行うため、アポトーシスはAnti-Fas抗体を用いて誘導し、ETosisの細胞との違いを形態学的に評価し、シグナルやプロセスにおけるその差異を明確にする。好酸球はプライマリ細胞であることから、マイクロRNAや遺伝子レベルでのノックダウンは行うことがほとんどできない。そのため、基本的にはETosisの薬理学的な阻害とその結果を明らかにし、必要に応じてシグナルの動態をWestern blottingや免疫沈降法などによって確認し、総合的に進めていくのが最も妥当なアプローチになると考えている。この方法論が機能しなかった場合、逆に様々な条件で共通のシグナルをメンブレンアレイまたはビーズアレイを用いてスクリーニングし、ターゲットを絞る方法を検討する。これらの検討から、好酸球がETosisに至る細胞内メカニズムを明らかにしていく。 また、生体内では脱顆粒の一形態としてETosisが炎症を増強している可能性が示唆されている。臨床検体を用いた免疫染色、電子顕微鏡、ELISA法による顆粒蛋白の測定から評価を行う。これらの検討は、国内外の学会(アレルギー学会、臨床検査医学会など)での発表を行う予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
ヒト末梢血から好酸球を分離するための抗体、ELISAキットの購入の見込みであったが、必要数が分予定より少なく、次年度に繰り越すことになった。 ヒト末梢血から好酸球を分離するための抗体は本研究においては消耗品であり、実験の進捗にあわせて使用予定である。
|