研究概要 |
β-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌の蔓延が大きな問題となっている. 特に, NDM-1産生菌に代表される複数クラス同時産生菌の増加が、臨床現場に大きな混乱と人的および経済的負担をもたらしている. 【研究目的】日常検査業務におけるβ-ラクタマーゼ産生グラム陰性桿菌検出の効率化を目指し, 新規検出法「Penta well法」を確立し, その有用性を評価する. 【研究内容】 (1)1回の測定でβ-ラクタマーゼの産生性の確認とクラス分類を可能とする迅速簡易検出法「Penta well法」の構築, (2)検査精度, コストパフォーマンスおよび省力化の面からの本法の臨床的有用性の評価, を行なう. 【意義および重要性】本研究の独創的な点は, 反応系を発色反応にしたことにより検査精度を格段に向上させたこと, さらに臨床現場に普及している自動検査機器(比色判定)への応用を可能にしていることである. 本研究によるPenta Well法の確立は, 病院検査室の日常業務におけるβ-ラクタマーゼ産生菌検出の迅速化と精度向上ならびに病院感染対策の効率化に大きく貢献できると考える. 【研究成果】今年度は, 測定条件の最適化を行ない, クラスB 検出系における偽陰性の解消を試みた. 検討の結果, サンプルは, TritonX-100 lysis-buffuerに菌を懸濁し,濃度を 1.0/OD660に調整したものを使用すること, また, 阻害剤は, クラブラン酸 5mM, ジピコリン酸 50mM, アミノフェニルボロン酸 90mMを使用することで, クラスB 検出系における偽陰性は解消することができた. 現在, この条件をPenta Well法の最適条件とし, 複数酵素同時産生菌を含めた臨床分離株を用いて, 各クラスのcut off値の設定を行なうとともに, 感度, 特異度など検査精度の検討を行なっている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度の研究計画では, 以下の2つの課題を挙げた. 課題1. クラスB検出系における偽陰性の解消と測定条件の最適化 課題2. 単独酵素産生菌および複数酵素同時産生菌を用いたcut off値の設定, ならびに確立された方法での感度・特異度・現行法との一致率の評価. 予定した実験はほぼ終了し, 目的とした課題1の クラスB 検出系における偽陰性の解消と測定条件の最適化は完了した. 現在は, 課題2の cut off値の設定および確立された方法での感度・特異度・現行法との一致率の評価に取りかかっているところで, 研究全体は概ね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
課題2を中心に引き続き研究を行うとともに,A. baumanniiやNDM-1産生菌など現行法で偽陰性と判定される菌種を組み入れて, さらに本法の検査精度の検証をすすめる. また, 26年度の前半から,「検査精度, コストパフォーマンスおよび省力化の面からの臨床的有用性の評価」にむけての準備を始める. 具体的には,名古屋大学医学部附属病院(約900床) 微生物検査室をモデルケースとして, 以下の調査,検討を行なう. ① 過去3年間に検出されたβ-ラクタマーゼ産生菌(保存菌,約300-500株)を対象にPCRおよびシークエンスにて遺伝子型別を行い, 現行の検出法の正確性を検証する, ② それら保存株をPenta well法で測定し, 本法との正確性を比較検討する, ③ 現行法およびPenta well法に要した費用を各々算出し比較する, ④ 検査に要する時間を比較し, 日常検査の流れのどの部分の省力化に寄与できるかなど意見交換する.
|