研究課題/領域番号 |
25460682
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川井 久美 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50362231)
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研究分担者 |
高橋 雅英 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40183446)
村上 秀樹 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (90303619)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | RET / 分子標的薬 / プロテオーム解析 |
研究概要 |
①RET発現細胞を用いた網羅的タンパク質リン酸化定量解析:多発性内分泌腫瘍症2A型変異RETを発現するマウス線維芽細胞株におけるタンパク質リン酸化解析を質量分析装置AB SCIEX Triple TOF 5600を用いて行い、MEN2A型変異RET発現細胞でのコントロールとなるリン酸化プロファイルを得た。これはRET癌遺伝子による腫瘍化に重要なシグナルの解明と阻害剤で標的とすべきシグナルを明らかにする上で基礎となるデータである。 ②RETを標的とする阻害剤の解析: RET発現細胞での解析:甲状腺髄様癌モデルマウス由来乳癌細胞(Kawai K et al. Cancer Sci. 2003)・甲状腺髄様癌細胞に3種の阻害剤を投与し、細胞レベルでのRET阻害効果を検討した。はじめにMTTアッセイの変法であるMTSアッセイにより細胞増殖抑制効果を検討し薬剤の濃度依存的増殖抑制効果が認められた。RET下流のシグナル分子活性化状態はウエスタンブロッティングによるRET自体のリン酸化および下流のAKT、MEK/ERKのリン酸化の解析で検討し、阻害剤による経時的・濃度依存的リン酸化抑制効果が確認された。 甲状腺髄様癌モデルマウスでの解析:進行癌の段階(3カ月齢)より3週間阻害剤を経口投与し、薬剤投与前後の血清カルシトニン値、腫瘍径から阻害剤の効果を検討した。これらの実験より今回用いる阻害剤がRETリン酸化を抑制することで下流のシグナルリン酸化を抑え細胞増殖を抑えることが示された。これは変異RETが原因となる腫瘍に対するこれら阻害剤の治療応用の可能性を示すものであり、今後臨床治験へ進む上で最も基礎となるデータである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間全体での目標に対し1年目の終了時点で達成度は30%と考える。 ①RET発現細胞を用いた網羅的タンパク質リン酸化定量解析:新たに導入された質量分析装置を用いた新規の実験を開始してのサンプル調製から網羅的タンパク質リン酸化解析の行程が順調に行えるための準備実験は順調に進み、セットアップが完了した。第一段階として、変異RET導入細胞での解析により、MEN2A型変異RET発現によるリン酸化プロファイルを得ることに成功している。 ②RETを標的とする阻害剤の解析:細胞レベルでは変異RET発現細胞で5種の薬剤の効果を比較検討し、細胞増殖抑制効果やシグナル抑制効果などいくつかのポジティブな知見が得られている。また甲状腺髄様癌モデルマウスでも初年度から経口投与実験を開始しており、1剤で腫瘍増殖抑制の結果が得られているがまだ個体数が十分でなく、引き続き個体数を増やして2つの薬剤で実験を行っていく必要がある。 阻害剤はこれまで5剤を検討して実験を行ってきた結果、最終的にシグナルの抑制・細胞増殖抑制において特に有効性の高い2剤に絞って今後の検討を行うことを決定した。
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今後の研究の推進方策 |
①RET発現細胞を用いた網羅的タンパク質リン酸化定量解析:MEN2A型RET導入細胞でのリン酸化プロファイルを得ることに成功しているが、MEN2B型変異RET導入細胞でのリン酸化プロファイルがまだ解析できていないため、細胞レベルでの基礎的プロファイルとしてこれをまず解析する。初年度の経験からタンパク質の中のリン酸化ペプチドの得られる割合がまだ低く、リン酸化ペプチドの濃縮手段を再検討しており、より高率にリン酸化ペプチドの解析が行えるように改善する予定である。その上で甲状腺髄様癌細胞株とその阻害剤投与によるリン酸化検討を行う。 ②RETを標的とする阻害剤の解析:細胞レベルでのRET阻害効果を今年度は細胞運動・浸潤能に与える影響やアポトーシス誘導などの点で検討していく。また甲状腺髄様癌モデルマウスでの解析は阻害剤を新たに一剤追加してさらなる経口投与実験を行い、個体レベルでの阻害剤の抗腫瘍効果を2剤で比較検討しつつ明らかにする。組織サンプルを用いた網羅的タンパク質リン酸化定量解析のセットアップを開始し、最終的には甲状腺腫瘍サンプルを用いたタンパク質リン酸化プロファイル解析に今年度中に着手したいと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
小動物吸入麻酔機の購入を予定していたが、愛知医科大学動物実験施設において飼育室に専用の麻酔機が配備され新規購入の必要がなくなったことが主な原因である。このほか質量分析装置AB SCIEX Triple TOF 5600での実際の解析に入る前に、購入試薬やリン酸化ペプチド濃縮手法の検討など小規模な予備実験が多くまだ本格的な質量分析のための試薬を完全にはそろえきっていない。また、高価な分子標的薬を用いているが細胞レベルの実験で必要な阻害剤はすでに購入済みのもので足りており、今後動物実験が本格化する中で阻害剤の必要量が増し購入が必要となってくるが、今年度は予定額を使用額がやや下回る結果となった。 質量分析のために用いるiTRAQのラベル化試薬、リン酸化ペプチド濃縮キット、カラムの追加購入が必要となる。分子標的薬2剤を追加で購入予定である。動物実験が増える予定であるため動物購入と飼育維持費を計上する必要がある。各種免疫組織学的解析および培養細胞を用いた実験も引き続き行う予定であり、このための試薬・プラスチック器具・各種抗体・細胞培養液・血清などは消耗品費として算出した。また研究遂行のための情報収集に国内学会参加の旅費も計上した。
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