研究課題
基盤研究(C)
アミノ酸混合液の定量精度と信頼性は、ダブシルクロリドによるアミノ基ラベル反応の効率と再現性に大きく依存する。反応のpHが高いほどアミノ基の反応性が高くなるが、ダブシルクロリドの加水分解反応も加速され、大過剰に加えたつもりのラベル剤が急減する。本研究では、非水溶媒を含めたラベル反応の最適な条件を見つけることを研究前半の重要課題として取り組んでいる。この問題は、広く利用されている様々なアミノ基ラベル試薬に共通する課題で、サンプル中に含まれるアミノ酸の濃度に100倍以上の差がある場合には特に重要である。今年度は、サンプルをpH9の重炭酸ナトリウム水溶液に溶解する水系条件について、13C2-グリシンを内部標準とし、同一サンプルを13C0-、13C6-、13C12-ダブシルクロリドでラベルして比較定量することにより問題点の抽出を行った。ダブシルラベルアミノ酸を分離・定量する方法として、今年度は、①ミクロ逆相系カラムによるキャピラリー液体クロマトグラフィーによる分離、②ダブシル基の可視部吸収(430 nm)を利用した検出、③ ②に引き続きエレクトロスプレーイオン化(ESI)によるイオン化とイオントラップ型質量分析装置での3つのサンプル由来アミノ酸の分離と比較定量(LC-Vis-ESI-MS)を開発し、トリプルタグによる定量原理を検証した。血清アミノ酸分析用の市販のアミノ酸標準混合液、糖尿病モデルラットとそのコントロールラットの血清を試験サンプルとして、ラベル反応とLC-Vis-ESI-MSによる比較定量を評価した。質量スペクトルの生データから、指定した質量電荷比(m/Z)を持つイオンのクロマトグラムを自動的に生成するPCプログラムも作成した。また、ヒト血清アルブミンとの複合体の結晶構造がPDBに登録されているダンシルアミノ酸について、結合曲線を測定し学会で報告した(論文作成中)。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、ダブシルクロリドによるラベル反応条件の検討が水系の範囲に限定されており、当初に計画していた非水溶媒での検討ができなかった。しかし、本研究を進める中で、①発現させたタンパク質の一部に予期しない共有結合性修飾(リン酸化など)が起こる、②抗体医薬などのタンパク質製剤の品質管理、などで当該タンパク質に起こっている修飾の程度と部位を決める方法が求められていることが分かった。そこで、本年度の後半で、安定同位体ラベルダブシルクロリドによるトリプルタグを、アミノ酸のみでなく、ペプチドにも応用できるかの検討を始めた。従って、総合的に見ると、本研究は順調に進展している。
(1)ダブシルクロリドによるラベル反応条件を、遊離型アミノ酸だけでなくトリプシン消化で得られるペプチド混合物についても、非水溶媒系を含めて定量的に検討し、アミノ酸混合物とペプチド混合物のそれぞれについて、最適なラベル条件を決定する。(2)次に、平成25年度に13C6アニリンから合成した約15 gの13C6スルファニル酸から、可能な限り高い収率で13C6ダブシルクロリドを合成する。合成最終ステップのメチルオレンジの塩素化の収率が低く、この固相反応におけるメチルオレンジのプロトン化の程度と水分含量が重要であることが分かっているので、まず、市販のスルファニル酸からの合成でこれらの条件の最適化を行う。(3)ヒト血清アルブミンとラット血清アルブミン(糖尿病モデルラットとそのコントロールラットから個体別に継時的に採血した血清から精製する)について、嫌気チャンバーの中で塩酸蒸気加水分解を行い、実際にアミノ酸組成の比較定量がどの程度の精度で可能か検証する。
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