本研究の目的は、タンパク質が翻訳後に受ける生理的や病理的な化学修飾を定量する方法を確立することにより、薬剤開発や治療・診断に役立つ定量的なバイオマーカーの探索を可能にすること、また、タンパク質の翻訳後修飾の基礎的研究に役立つことである。そのための戦略として、本研究では、タンパク質を嫌気下でまず完全に加水分解し、生じたアミノ酸を同定し定量することにした。その理由は、化学修飾を受けたN-末端アミノ酸以外のすべてのアミノ酸残基(化学修飾を受けた残基も含めて)がアミン選択的ラベル試薬と反応するα‐アミノ基またはイミノ基を持つ遊離型アミノ酸として回収できるからである。 翻訳直後のタンパク質は20種類のアミノ酸で構成されており、翻訳後修飾を受けるとこの基本20アミノ酸とは異なる多数の種類のアミノ酸ができる。この識別と定量を容易にするために、ダブシルクロリドが2個のベンゼン環を持つことに着目し、[13C0]-、[13C6]-、[13C12]-ダブシルクロリドを合成した。コントロールタンパク質の加水分解サンプル、化学修飾ストレスを受けたタンパク質の加水分解サンプル、基準アミノ酸混合サンプルをこの3つの互いに6だけ異なる安定同位体ラベル剤でそれぞれラベルした後一つにまとめ、キャピラリーHPLCで分離して質量分析計に導入する。各アミノ酸は、基準アミノ酸と同じものはトリプレットピーク、異なるものはダブレットピークとして検出され、ピーク強度の比から精確に比較定量できる。 最終年度において、ようやくこの測定のコンセプトを実証することができ、プラナリアのような小さな生物のもつアミノ酸の個体別定量・比較にも応用できるようになった。
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