研究課題
基盤研究(C)
本年度は、まず、卵巣明細胞腺癌(CCA)の血清診断にTFPI2が有用なバイオマーカーとなることがわかり、論文発表した(J Proteome Res 2013)。CCAを含む婦人科疾患95例の組織検体を用いて、組織中TFPI2の発現解析をリアルタイムPCR法およびウエスタンブロット法にて行った結果、本遺伝子および蛋白質は、子宮内膜症などの良性疾患や他の組織型卵巣癌ではほとんど発現は認められず、CCAの患者組織に極めて限定的に発現していることがわかった。そこで、本バイオマーカー遺伝子の発現調節機構を検討すべく、まず、様々な組織癌由来の細胞株におけるTFPI2プロモーター領域のメチル化をパイロシーケンス法により調べた。大腸癌、前立腺癌、non-CCA卵巣癌の細胞株群においては、高頻度なメチル化が認められたのに対し、CCA細胞株群においてはメチル化は検出されなかった。次に、CCAの特徴的な転写因子であるp53およびHNF-1βに着目し、これらの転写因子がTFPI2のCCA特異的発現に関与しているのかsiRNAを用いて検証した。CCA細胞株であるOVMANAにおいては、p53のノックダウンによりTFPI2 mRNAの発現量および培養上清中のTFPI2分泌量が20%以下にまで低下したが、HNF-1βノックダウンでは60%までの低下にとどまった。一方で、別のCCA細胞株 OVISEにおいては、HNF1βノックダウンにより、TFPI2遺伝子および分泌量が30%以下に低下し、p53 siRNAの影響は少なかった。これらの結果により、TFPI2遺伝子発現におけるp53とHNF-1βの寄与率は細胞株により異なるものの、両転写因子が本遺伝子のCCA特異的発現に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
CCAではなぜTFPI2遺伝子が発現するのか、そのメカニズムについての解析をほぼ計画通り進めることができ、プロモーターメチル化と関連する転写因子を特定することができた。CCAは他の組織癌とは異なり、TFPI2プロモーター領域のメチル化が起きていないこと、p53やHNF-1βといったCCAとの関連性が指摘されている転写因子が関与することでTFPI2のCCA特異的発現が起きていることを明らかにした。
組織検体を用いて、TFPI2発現とメチル化頻度やp53、HNF-1βとの関連性を調べる。また、分泌TFPI2蛋白質のC末端解析を行い、C末端アンカー領域の切断によりTFPI2が培養上清中に遊離されるのかどうか明らかにする。
今年度計画していた検体解析において、予定していた90%の検体、細胞株についてはデータを取り終えたが、残り10%の検体においては時間の関係上データを取れなかった。残り10%の検体におけるマーカー蛋白質および関連転写因子群の遺伝子発現量を調べるための試薬代として使用する。
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件) 備考 (3件)
J. Proteome Res.
巻: 12(10) ページ: 4340-4350
10.1021/pr400282j
巻: 12(10) ページ: 4617-4626
10.1021/pr4004807
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http://www.kanaloco.jp/article/59934/cms_id/59725
http://www-mls.tsurumi.yokohama-cu.ac.jp/lab/proteome.html
http://www.yokohama-cu.ac.jp/res_pro/patent/20130426_tokyoken_hirano_arakawa.html