気管支喘息や慢性気管支炎など、慢性的な呼吸不全患者において、長年の闘病生活の末、突然の容態急変はよく遭遇する現象である。容態急変の予知、あるいは予防には、過去の一定期間を反映した呼吸不全状態マーカーが求められてきた。呼吸不全の重症度評価には、血液ガス(PaO2)や酸素飽和度(SaO2)が広く用いられている。これらは「その瞬間」に限られた酸素濃度を示す指標である。喀痰の吸引処置等で呼吸状態が一過性に改善した場合、Pa02やSaO2の値は一時的な改善を見せるのみであり、患者の全身状態を反映する「長期的な低酸素状態にともなう身体のダメージ度を反映する指標」は存在しない。 本研究では、組織虚血マーカーであるIschemia Modified Albumin (IMA)とParaoxonase-1 (PON1)の2つを候補と捉え、検討を行ってきた。このうちIMAは、虚血状態においてN末端アミノ酸8個に非可逆的変性をきたしたアルブミンである。アルブミンの血中半減期は約1週間であるため、糖尿病における血糖値とグリコアルブミンの関係の如く、IMAが過去1週間の低酸素状態の指標に使える可能性がある。 本研究では血清IMAが仮説通り長期的低酸素血症の指標となる可能性を証明できた。米国Touro大学生化学教室Gugliucci教授との共同研究で、ようやくpilot studyながら国際学会に発表できる段階に到達、一流英文誌であるClinical Chemistry and Laboratory Medicineにも掲載された。 我々の検査法は、「比色法」という非常に簡単な原理で実施できるため、将来は自動分析機に搭載し緊急検査にも応用できる。今後は実際に多くの症例の検討を行い、慢性呼吸不全患者のQOL向上に貢献したい。
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