研究課題
近年,患者数が増加している糖尿病は合併症として血管障害を起こすことが知られている。この合併症は末梢の微小血管の肥厚や硬化を生じ,動脈硬化や脳・心筋梗塞を引き起こす。合併症が生じる網膜,腎臓と同様に,歯肉も微小血管で構成されている。このため,糖尿病により影響を受ける歯周病も合併症として知られおり,糖尿病は歯周病のリスク因子であるにもかかわらず,糖尿病による微小血管の機能障害機構のメカニズムの解明されていない。本研究は糖尿病性血管障害に焦点を絞り,口腔の血管反応を測定系として「歯肉微小血管と糖尿病性血管障害との関連性メカニズムの解明」を目的とし,臨床応用の基盤となる科学的エビデンスに基づく非侵襲的血管評価法の確立を目指し計画された。本年度は,糖尿病性血管障害に関し,レーザードップラー血流計により歯肉血流量を測定し,下記の結果を得た。1) 糖尿病による歯肉微小循環に対する影響血流測定用プローブでラット歯肉を1分間圧迫,解放後の血流変化を測定し,歯肉反応性充血による血管弾性を評価した。その結果,コントロールラットに対し糖尿病モデルラット (GK)の歯肉微小血管機能は病態の進行に伴い,血管内皮,平滑筋機能の経日的な低下が認められた。2) 歯周病菌感染による歯肉微小循環に対する影響GKとコントロールラットに歯周病菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg)を感染させ,1) と同様レーザードップラー法を用いてPg感染による歯肉微小循環への影響を解析した。その結果,Pg感染により,コントロールラット,GKともに歯肉微小血管機能が低下したが,この機能低下はGKでより顕著に認められた。これら1),2) の結果より,糖尿病性血管障害は歯肉微小血管機能に影響与えることが示され,歯肉微小血管機能の変化が,糖尿病による末梢血管障害の一指標となることが改めて示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り下記の結果が得られたため,本研究は“おおむね順調に進行している”と思われる。1) 糖尿病による歯肉微小循環に対する影響を検討した結果,糖尿病により歯肉微小血管機能は病態の進行に伴い,血管内皮,平滑筋機能ともに低下が認められた。2) 歯周病菌感染による歯肉微小循環に対する影響を検討した結果,歯肉血管機能は歯周病と糖尿病による影響が認められた。また、高血圧ラットでも上と同様な結果が得られた。以上より,歯肉微小血管機能の変化が,糖尿病、高血圧症を含めた生活習慣病による末梢血管障害の一指標となる可能性が強く示唆された。
本年度と同様GK,コントロールラット,さらにPgを感染させた動物モデルを用いる。1) Pg感染による歯槽骨吸収量から,糖尿病と歯周病との関連性を解析する。2) 口腔内血管等を摘出し,等尺性張力変化を指標に,糖尿病とPg感染による局所血管機能変化の解析を行う。3) 歯肉,腎臓,網膜等の血管鋳型標本を作製し,糖尿病とPg感染による血管の障害程度を形態学的に精査する。4) 3)と同じ標本の活性酸素種 (ROS) を電子スピン共鳴法 (ESR法) を用いて直接測定し,糖尿病とPg感染による口腔領域の酸化ストレスの解析を行う。5) 得られた結果を総括し,臨床応用の基盤となる「歯肉微小血管と糖尿病性血管障害との関連メカニズムの解明」に加えて、レーザードップラー測定法の臨床応用の先駆けとして、直径約1mmの血流測定プローブによる歯周ポケット底部の血流量の測定に望む。
(理由)研究遂行にあたり、既存の測定装置や、研究分担者と消耗品やモデル動物の共同使用が可能であったので、支出が抑えられた。
(使用計画)昨年度より血流量以外の研究分担者が担当する指標の測定がさらに必要となり、病態モデル動物や消耗品の支出、分担者の支出の増加も考えられるため、当初の計画通り、必要な経費を本研究計画遂行のために使用する。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件)
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