本研究では、凝集によって蛍光強度が劇的に増大する凝集誘起発光(AIE)色素を用いて生体分子を定量し、診断を行う手法の開発と、そのメカニズムを明らかにすることを目的とした。ターゲットとする疾患として、罹患者数が多く社会的影響が大きいガンとアルツハイマー病(AD)を選び、それぞれのバイオマーカーと考えられるテロメア鎖およびアミロイドβ(Aβ)の検出を行った。 テロメア鎖に対するプローブとして、AIE色素で修飾した相補鎖DNAまたはPNAを用いたところ、いずれも高い感度で定量が可能であった。プローブがDNA の場合にはテロメア量に比例して蛍光強度が増加するのに対しPNAをプローブとした場合には、逆に濃度依存的に蛍光強度が弱くなった。そこで、最終年度において、検出メカニズムに関する検討を行い、PNAの場合はその疎水性によりプローブ自身が凝集して発する蛍光が二重鎖形成に伴い消光されるため消光型の検出となるのに対し、DNAの場合は、AIE色素の周辺に分子運動を阻害する核酸塩基が存在することで、蛍光が増大することを明らかにした。これらの知見は今後のプローブ設計の指針を与えるものとして意義がある。 ADについてはそのマーカーであるAβをターゲットとし、アミロイド繊維化促進ペプチド(AFPP)にAIE色素を結合させたプローブ(AIE-AFPP)を用いた。AIE-AFPPはAβと共凝集しつつその繊維化を促進し、Aβの濃度依存的に蛍光が増大した。検出限界は4.2 nMであり、この値はELISAには及ばないが、プローブ合成およびassayの簡便性や、測定者に高いスキルを要求しない点において優れた手法である。
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