研究概要 |
本研究では、関節リウマチ(RA)において、従来の客観性の比較的低い疾患活動性評価法に代わりうる客観的評価法の確立を目的とし、新しい血清バイオマーカーによる評価法の探索ならびに臨床的情報(疾患活動性評価、関節破壊評価、機能障害評価など)との関連性の検証作業を進めている。 平成25年度は、候補となる血清バイオマーカーとしてVCAM-1, EGF, VEGF-A, IL-6, TNF-RI, YKL-40, MMP-1, MMP-3, leptin, resistin, SAA, CRPを挙げ、当科でTNF阻害薬 (Infliximab, Etanercept, Adalimumab)を導入した147例およびIL-6レセプター阻害薬 (Tocilizumab)を導入した52例において、治療導入前、24週後、52週後の保存血清を用いこれらの測定を完了した。 その結果、TNF阻害薬を使用した症例ではいずれのバイオマーカーとも治療前後で低下したのに対し、IL-6レセプター阻害薬ではIL-6のみが上昇しその他のバイオマーカーはいずれも低下し、薬剤によってバイオマーカーが異なる挙動を示すことを明らかとした。また、これらのバイオマーカー濃度をDAS28-CRP近似アルゴリズムに適用したところ、疾患活動性、治療効果と良好に相関し、本邦関節リウマチ患者においてマルチバイオマーカーによる疾患活動性評価、治療効果判定は、従来法と比較し高い精度で可能であることが示された。さらに、関節破壊予測および機能障害も含めたCDC(comprehensive disease control)予測についても検討したところ、従来のcomposite measureを上回る精度で可能であることが示唆され、これらの結果を日本リウマチ学会、米国リウマチ学会、欧州リウマチ学会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の到達目標は(1)「複合的バイオマーカーによる疾患活動性評価アルゴリズムの妥当性の検証」、(2)「MTXおよび生物学的製剤(Infliximab、Etanercept、Adalimumab、Tocilizumab)使用下でのバイオマーカーによる疾患活動性評価アルゴリズムの特性の解析」であったが、このうち当科において生物学的製剤(Infliximab、Etanercept、Adalimumab、Tocilizumab)を導入した症例において、12種類のバイオマーカー(VCAM-1, EGF, VEGF-A, IL-6, TNF-RI, YKL-40, MMP-1, MMP-3, leptin, resistin, SAA, CRP) の測定ならびにアルゴリズムに適用した際の疾患活動性(DAS28-ESR, DAS28-CRP, SDAI, CDAI)、治療効果(ΔDAS28-ESR, ΔDAS28-CRP, ΔSDAI, ΔCDAI)、関節破壊進行(van der Heijde modified Sharp score)予測および機能障害(HAQ-DI)との関係に関する検討をすでに完了している。 その結果、本邦関節リウマチ患者において、TNF阻害薬とIL-6レセプター阻害薬では12のバイオマーカーのうちIL-6の挙動が全く異なること、および、マルチバイオマーカーアルゴリズムによるスコアは、疾患活動性評価、治療効果判定は、従来法と比較し高い精度で可能であることのみならず、関節破壊予測および機能障害も含めたCDC(comprehensive disease control)予測においては従来法を上回る精度で可能であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2013年の米国リウマチ学会および欧州リウマチ学会において、関節リウマチの診断および疾患活動性を反映する可能性がある新規バイオマーカーとして、14-3-3η(eta), C1M, C2M, C3Mなどが新たに報告された。これらの分子生物学的機能は未だ不明の点が多いが、関節リウマチにおいては疾患の成立ならびに関節破壊に深く関与する可能性が示唆されているが、本邦関節リウマチ患者における妥当性の検証は未だなされていない。そこで、当科症例において新たにこれらの測定を行い、測定系として単体での妥当性を検証するほか、本年までに得られたデータと組み合わせることにより、本邦関節リウマチ患者における診断、疾患活動性評価、ならびに関節破壊や機能障害などの臨床的アウトカムの予測に対する精度のさらなる向上が可能であるかどうか検証する。 また、生物学的製剤フリー寛解の予測を目指して、当科で生物学的製剤を導入し寛解達成後に休薬を行い、以後も寛解状態を維持可能であった症例とそうでなかった症例についても本年までに得られた知見を基に追加検討を行い、休薬後の寛解維持または疾患活動性再燃を予測しうるバイオマーカーの同定を目指す。
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