研究課題/領域番号 |
25460714
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
平松 恭子 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 主席研究員 (80181189)
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研究分担者 |
川喜田 正夫 公益財団法人東京都医学総合研究所, ゲノム医科学研究分野, 研究員 (00012740)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ジアセチルスペルミン / 腫瘍マーカー / 尿検査 / 大腸癌 / イムノクロマト / 癌の早期発見 / 癌のフォローアップ |
研究実績の概要 |
尿中ジアセチルスペルミン(DiAcSpm)は、早期大腸がん等に対して高い陽性検出率を示す、無侵襲的でかつ高感度の新規腫瘍マーカーである。本研究は、DiAcSpmを癌の早期発見・早期治療に導く腫瘍マーカー、および、癌のフォローアップや予後予測にも有用な腫瘍マーカーとして確立するとともに、その生合成から尿中への排泄に至る動態を解明し、生化学的基礎の観点からも万人が納得できる新規検査項目とすることを目的として、平松および川喜田を中心に、東京都立駒込病院の医師を連携研究者および協力研究者として遂行されている。 我々は25年度の研究で、腫瘍組織のDiAcSpmが良性大腸腺腫から大腸癌に至る過程において、前癌状態と考えられる高度異型腺腫の段階から上昇することを明らかにし、早期癌における尿中DiAcSpmの上昇をもたらす原因が癌組織中におけるDiAcSpmの上昇であることを明らかにした。今年度は、尿中DiAcSpmが早期から上昇する傾向が肺癌においても認められること、さらにIA期の早期肺癌においては、腫瘍サイズ、CT所見とともに、尿中DiAcSpmレベルが、病巣の浸潤性を治療前に予測するための独立の予測因子として有効であることを明らかにすることができた。 我々はまた、早期癌の検出に有効であり、かつ非侵襲的に検査できるというDiAcSpmの特徴を活用するために、即時に現場で結果を知ることができる簡易測定法として、イムノクロマト測定系の開発を進めている。本年度は、25年度に行った基礎開発の結果に基づいて、定量性、安定性を兼備した実用化に向けたプロトタイプを提案・報告し、さらに改良を進めるとともに、摂取水分量によって変動する尿濃度のクレアチニン補正をイムノクロマトチップ上で行うことを視野に入れて、クレアチニン特異抗体の作成とその特性検討を行って報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、全体としては当初の計画に沿って研究が進展しており、有用な知見、有用な産物が得られていると判断している。 ただ、各種の癌のフォローアップや予後予測におけるDiAcSpmの有効性の検討について、検査データと臨床データとの照合、連結に当初の計画より時間がかかる状況がなお続いている。この点については、最終年度である27年度に一層の努力を傾注する必要がある。その中にあって、大腸癌および肺癌の手術後再発時期と手術前尿中DiAcSpmレベルの間に関連がある可能性が示唆されており、この点が今後の解析において焦点の一つになると考えている。 DiAcSpmの体内における生成機構の解明に関しては、安定同位体を用いた質量分析法によるポリアミン代謝酵素活性測定法の開発を進めてきた結果、合成系のOrnithine decarboxylase (ODC), S-Adenosylmethionine decarboxylase (SAMDC), Spermidine synthese (SpdSyn), Spermine synthese (SpmSyn)、分解系のSpermine/spermidine-N-acetyltransferase (SSAT), Acetylpolyamine oxidase (APAO) の測定に必要な同位体標識基質、同位体標識標準物質、測定系の較正用の酵素類等の準備を整えることができた。これらを利用したポリアミン代謝の研究の準備が整ったということができる。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究がおおむね順調に進んでいることに鑑み、各種の癌の診断および予後予測マーカーとしてのDiAcSpmの位置づけに関する研究、およびDiAcSpmの合成、分解、排出系の解明、および細胞の悪性化との関連の解明、イムノクロマト測定デバイスの開発について、当初の計画に沿った方向で研究を進めようと考えている。 すなわち、1.病期の異なる癌患者の組織および尿中DiAcSpm量の検討を通じて、DiAcSpmの早期癌検出指標としての有効性の範囲を明らかにすること、2.大腸癌、肺癌を中心に、各種癌症例のフォローアップに関連するデータを集積し、それぞれの癌に対して、最も適切なDiAcSpmの利用法を明らかにするとともに、既存の腫瘍マーカーとの組み合わせを利用することにより、効率よい早期癌発見、病勢判断、予後予測のプロトコルが提示できるかどうかも含めて検討し、適時、適切な治療に必要な検査情報の提供を図ること、3. DiAcSpmの代謝に関連する酵素の発現や活性の精密測定を通じて、合成、分解、排出系を解明し、細胞の悪性化の初期から認められるDiAcSpmの増加との関連を明らかにすることにより、腫瘍マーカーとしての生化学的基礎の解明を図ること、4.イムノクロマト法による簡易DiAcSpm測定系の実用化に向けて、測定デバイスの一層の改善を図ることなど、当初予定し、すでに部分的に着手している研究の進展を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
生化学自動分析機の保守部品交換のタイミングが当初の見込みより若干遅くなる傾向があるため、一部が次年度に持ち越しとなった。また、DiAcSpm代謝関連酵素の活性測定や、DiAcSpm簡易測定系の開発に関しても測定系確立までの条件検討の段階では器具、試薬類の必要量が見込みより少なかったことも繰越の一因と考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度にあたって、確立された酵素活性測定条件を利用して多くの検体を処理・測定するための高価な基質等の材料費として、また、実用的DiAcSpm簡易測定デバイスの完成に向けて、多くの試作デバイスを作成するための材料費として、持ち越しとなった予算を活用する予定である。
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