研究課題/領域番号 |
25460718
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
尾崎 紀之 金沢大学, 医学系, 教授 (40244371)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 機能性胃腸症 / 内臓痛 / 副腎皮質刺激ホルモン放出因子 / ストレス / CRF2受容体 / urocortin / 上部消化管障害 / セロトニン |
研究実績の概要 |
【背景】我々は、これまでにストレスによって胃の痛覚過敏をきたす機能性胃腸症動物モデルを開発し、ストレス誘発性の胃の痛覚の亢進には、副腎皮質放出ホルモン放出因子(CRF)ファミリーと、その受容体であるCRF受容体のうちCRFR2が関与していることを見出した。また、昨年度はCRFファミリーであるCRF、urocortin(Ucn)1、Ucn2及びCRFR2の胃粘膜における発現、及び、ストレス負荷時におけるCRFR2の有意な発現増加が明らかになった。一方、ストレスによる結腸の痛覚の亢進ではCRFR1が痛覚の亢進に、CRFR2が鎮痛に関わっているとの報告があり、胃と結腸では痛覚の亢進に関わるCRF受容体が異なる可能性がある。また結腸ではセロトニンを含む細胞でCRFR1,2が発現しているとの報告がある。 【目的】今年度は、胃粘膜における各CRFファミリーの発現のストレスによる変化を調べた。また、ストレス負荷していない通常の動物にCRFR2作動薬を投与し胃の痛覚の変化を調べた。また、消化管の痛覚への関与が報告されているセロトニン受容体が、ストレスによる痛覚の亢進に関与しているか調べるため、5-HT3受容体拮抗薬ラモセトロンの亢進した胃の痛覚への関与を調べた。 【結果】胃の粘膜ではCRF、Ucn1,2及びCRFR2が発現しており、Ucn2及びCRFR2の一部は肥満細胞に発現していることが明らかとなった。Ucn2及びCRFR2が発現している肥満細胞は、粘膜固有層の結合組織内にみられた。ストレス負荷していない通常の動物にCRFR2作動薬を投与すると、有意な差は見られないものの痛覚の亢進傾向がみられた。また、5-HT3受容体拮抗薬は、今回使用した量(30 μg/kg)では、効果が無かった。 【結論】胃の痛覚においては、結腸と異なり、CRFR2が痛覚の亢進に関与しており、機能性胃腸症の痛覚発現メカニズムへの関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ストレスによる胃の痛覚亢進のモデルでは、比較的再現性良くCRFR2拮抗薬による痛覚抑制がみられ、CRFR2のストレスによる痛覚の亢進のメカニズムへの関与が示唆される。一方、ストレスによる胃排出能の変化を検討したが、有意な差は得られなかった。このことから、このストレスモデルは機能性胃腸症の痛みに特化したモデルと考えられた。CRFR2が胃の痛みに関与しているか調べるために、CRFR2作動薬をストレスを負荷していない動物に投与したところ、現時点では、有意差は無かったものの、痛覚亢進の傾向が見られた。CRFR2の胃の痛覚の亢進への関与が示唆され、現在引き続き実験を行っている。消化管の痛覚に関与することが報告されているセロトニン及びセロトニン受容体拮抗薬が、ストレスによる胃の痛みに関与しているか調べるために、ストレスで胃の痛覚が亢進している動物に、5-HT3拮抗薬ラモセトロンを投与した。現在検討している量(30 microgram/kg)では、胃の痛覚に変化が無かった。
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今後の研究の推進方策 |
ストレス負荷後の結腸粘膜で肥満細胞の大幅な増加や、ストレス誘発性の痛覚の亢進や下痢などの症状の増悪などに、肥満細胞が放出する様々なケミカルメディエーターの関与が報告されている。今後はストレス負荷時においての肥満細胞の発現の変化を組織学的に検索する。また、ストレス誘発性の結腸の痛覚の亢進にはIL-6が関わっていることや、大動脈の平滑筋では、UcnがCRFR2を介しIL-6の発現を亢進させるとの報告があるため、CRFR2がストレスによる胃の痛覚を亢進させるメカニズムとして、CRFR2を介した、IL-6を中心とした知覚神経の興奮性に関与する分子を明らかにする。また本研究で用いたストレスモデルで、結腸の痛覚の亢進が起きているか確認し、CRFR2拮抗薬の効果を調べ、胃と結腸の痛覚におけるCRFR2の関与の違いを明らかにする。また、ストレスで既に亢進した胃の痛覚に対して、5-HT3受容体拮抗薬は効果を示さなかった。ストレスをかけるときに、連続して5-HT3受容体拮抗薬を投与することで、痛覚の亢進過程に5-HT3受容体が関与しているか調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた試薬が、想定より安く購入できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究に効率的に使用する予定である。
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