研究課題
基盤研究(C)
痛みは危険から回避するための大切な感覚であるが、行き過ぎた痛みは抑えなければならない。世界にはモルヒネも効かない痛み「神経障害性疼痛」に罹患する患者が千数百万人も存在し、救われ難い痛みに苦しんでいる。本課題では平成25年度中に実験動物の髄腔内に投与することで神経障害性疼痛様の痛み行動を引き起こす物質としてCCL3と呼ばれるケモカイン分子を見出した。また、このCCL3誘起性疼痛はCCL3を受容するCCR1、CCR5と呼ばれる受容体タンパク質の作用によって引き起こされることを薬理学的手法を用いて明らかにした。一方、末梢神経を傷害することによって誘導される神経障害性疼痛モデル動物においては、CCL3の働きを抑える抗体を脊髄に作用させることによって疼痛の発症を抑えられることを見出し、神経障害性疼痛の発症メカニズムにおいては内因性のCCL3が関与することを明らかにした。この時CCL3の遺伝子発現が脊髄内で部位特異的に増加していることを初めて見出した。また、脊髄内のミクログリアのみを回収して遺伝子発現変化を測定する手法を確立し、神経の損傷に応答したミクログリアでCCL3の遺伝子発現が増加していることを突き止めた。CCL3誘起性疼痛モデルを用いた実験から見出したCCR5の阻害薬は、神経障害性疼痛モデル動物の疼痛発症を有意に抑制しており、このCCR5の阻害薬はすでに医薬品として承認されている薬物であることから、既存薬のリポジショニングからの神経障害性疼痛治療薬開発の第一歩になることが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
CCR5の阻害薬として、すでに医薬品として承認されているmaravirocの髄腔内投与が期待通りに疼痛発症を抑制することを見出しその成果を論文化することができた(Matsushita K, Tozaki-Saitoh H, Kojima C, Masuda T, Tsuda M, Inoue K, Hoka S., Anesthesiology, in press)
CCL3からCCR5というシグナル経路が存在することを示し、ミクログリアで両方の分子が発現していることを明らかにしたが、脊髄内のその他の細胞種での検討はできていないことから引き続き、ケモカイン産生細胞種、ケモカイン受容体発現細胞種の同定について詳細な検討をすすめる。脊髄組織をサンプルとして、脊髄神経傷害側と非傷害側に分け、各細胞種特異的な表面マーカーとこれに対する蛍光標識抗体、セルソーターを用い細胞種ごとに分離してケモカイン関連分子の遺伝子・タンパク質発現量を測定する。また、過去に脊髄ミクログリアに発現するP2Y12受容体が疼痛発症に関与することを見出しており、P2Y12受容体活性化によってケモカインの発現が誘導されるか否かを検討する。
物品費としての利用を予定していた分で、金額の確定時に予定金額との差分が発生した。実験試薬の購入代金に充てる。
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Anesthesiology
巻: xxx ページ: xxx
doi: 10.1097/ALN.0000000000000190
http://yakkou.phar.kyushu-u.ac.jp/