研究課題
痛みは生体の危険視号として重要な感覚であるが、行き過ぎた痛みは生活の質を著しく低下させる抑えなければならない感覚となる。神経障害性疼痛に罹患する患者の中にはモルヒネによっても痛みの苦痛から逃れることのできない患者もおり、そのメカニズムの解明や治療薬の開発は急務の課題である。本課題では平成25、26年度の間に神経障害性疼痛を引き起こすケモカイン分子としてCCL3を見出し、国際誌に発表した。実験動物において、外因的に与えたCCL3によって引き起こされる疼痛は、CCL3の受容体として同定されているCCR1、CCR5のそれぞれが関与する、2つの病態遷移相を持つことを見出し、特にCCR5阻害薬の処置によって比較的長期にわたる疼痛の軽減が達成されることを実験的に証明してきた。末梢神経傷害後の脊髄からセルソーターを用いてミクログリアを単離する手法を確立し、ミクログリアにおいてCCL3の遺伝子転写レベルの亢進を検出することに成功した。CCL3発現増加の細胞内シグナルの解明のために、ミクログリアの初代培養細胞を調整し、神経障害性疼痛に関与することがわかっているP2Y12受容体アゴニストを処置する実験系を構築し、ミクログリアのP2Y12受容体刺激が一過性の細胞内カルシウム応答を引き起こし、NFATとよばれる転写因子の活性化を介してCCL3の発現を誘導していることを見出した。これにより、ミクログリアのP2Y12受容体活性化によるケモカイン発現から疼痛発症へとつながる病態メカニズムを新たに提唱するに至った。
2: おおむね順調に進展している
神経障害性疼痛モデル動物において、CCR5阻害薬が疼痛症状の緩解をもたらすこと、CCR5阻害薬としてすでに医薬品として利用されている薬物が経口投与によってもその効果が期待できることを見出しており、さらにはCCR5のリガンドであるCCL3がミクログリアのP2Y12受容体の活性化によって発現誘導されることを発見した。CCL3の中和抗体が疼痛病態の発症を抑制することも確認しており、当初の計画通りに進展している。
脊髄ミクログリアのP2Y12受容体活性化によりCCL3のタンパク発現が増加することを確認しているが、受容体のCCR5も脊髄ミクログリアに強く発現していることがin situ hybridizationの結果から示唆されている。ミクログリアのCCR5がオートクライン的な活性化を受けて、ミクログリアの活性化スペクトルを決定し、脊髄後角の痛覚伝達調節回路を疼痛発症の方向性へと遷移させているのはないかという仮説を新たに考え、CCR5活性化によるミクログリアの遺伝子発現パターンの変化や、ケモカイン受容体シグナルによるケモカインリガンドの産生等のフィードバックループの可能性についてもRNA干渉を用いたシグナル分子のノックダウン手法を用いつつ検討してゆく。
物品費として利用を予定した文で、金額の確定時に少額の差分が発生した。
実験試薬の購入代金に充てる。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Pharmacological Science
巻: 126 ページ: 172-176
Molecular Pain
巻: 10 ページ: 53
10.1186/1744-8069-10-53
Science Translational Medicine
巻: 6 ページ: 256
10.1126/scitranslmed.3009430
Nature Communications
巻: 5 ページ: 3771
10.1038/ncomms4771
Purinergic Signaling
巻: 10 ページ: 515-21
10.1007/s11302-014-9413-8
Anesthesiology
巻: 120 ページ: 1491-503
10.1097/ALN.0000000000000190