研究課題/領域番号 |
25460724
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (80369173)
|
研究分担者 |
山本 昇平 名古屋市立大学, 薬学研究科(研究院), 助教 (90433226)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 神経障害性疼痛 / アストロサイト / 乳酸 / モノカルボン酸トランスポーター |
研究概要 |
本研究では、神経障害性疼痛の発現に重要である脊髄アストロサイトの活性化が、どのような様式で痛覚伝達を亢進させるかを明らかにすることを目的としている。本年度では、アストロサイトから神経細胞へ供給される乳酸の関与について、行動学的ならびに免疫組織学的な手法を用いて解析を行った。乳酸は、神経細胞が活性化する際に利用されるエネルギー源であり、アストロサイトから放出され、モノカルボン酸トランスポーター(MCT)を介して、神経細胞へ取り込まれる。そこで、神経障害による痛覚過敏に対するMCT阻害薬の効果を検討した。MCT阻害薬を神経障害の直前ならびに、触刺激に対する反応閾値の測定直後に脊髄くも膜下腔内へ投与し評価したところ、神経障害による痛覚過敏が認められなくなった。アストロサイトから放出される乳酸の産生は、アストロサイトに貯蔵されるグリコーゲンを原料としている。そこで、次にグリコーゲン分解酵素阻害薬の効果についても検討を行った。グリコーゲン分解酵素阻害薬の処置により、神経障害による痛覚過敏の形成は抑制された。 乳酸のアストロサイトからの放出や神経細胞への取り込みを行っているMCTには14種類のアイソフォームが存在しており、中枢神経系においてはMCT1、MCT2、およびMCT4が発現していることが知られている。そこで、免疫組織学的手法を用いて、これらアイソフォームの発現について検討を行った結果、抗体の反応性の問題で、特異的なシグナルを検出することは、脊髄ではできなかった。海馬においては、MCT抗体により特異的シグナルが検出できたことから、脊髄でのMCTの発現量が低い可能性が考えらえた。これらの結果から、神経障害性疼痛の発現には、アストロサイトの活性化が必要であるが、アストロサイトの活性化により神経細胞への過剰な乳酸の放出が、神経障害性疼痛を引き起こす原因である可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、神経障害による痛覚過敏の発現に対する乳酸の関与を行動学的ならびに免疫組織学的な手法を用いて解析をすることができた。この研究については、次年度も引き続き継続して行うことになっており、現時点での研究の進捗状況としては、研究計画書に記載されている達成度を満たすことができていると考えている。また、免疫組織学的検討で良好な結果が得られなかったことから、次にウェスタンブロット法などの別の測定方法を用いて、神経障害時の際に脊髄において、モノカルボン酸トランスポーターがどのように変化ているかについて解析したい。さらに、電気生理学的手法を用いた検討の準備を現在行っており、次年度では、解析結果が得られるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、平成25年度に得られた結果をもとに、アストロサイトの活性化が乳酸の放出をおこし神経細胞機能を亢進するため、神経障害性疼痛が発現している可能性を行動学的手法以外の方法で検証する。また、乳酸の処置による痛覚閾値への影響と、乳酸により活性化される細胞内情報伝達系を脊髄において解析し、アストロサイト活性化による痛覚伝達亢進の分子メカニズムの一端を、行動学的・分子生物学手・免疫組織学的に明らかにする。次に、もう一つのテーマである、神経障害性疼痛発症におけるアストロサイトによる神経細胞への物理的接触の関与の検討を開始する。神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄を取り出し、免疫組織学的ならびに分子生物学的手法を用いて、神経細胞接着因子(L1-CAMやEphB)の発現を解析する。さらに、発現に変化がみられた神経細胞接着因子が神経障害性疼痛の発現に関与するかを明らかにするため、特異的阻害剤や抗体を用いて、行動学的に解析する。加えて、アストロサイトの初代培養系を立ち上げ、いくつも知られている痛覚伝達物質のうち、どの因子がアストロサイトの活性化を引き起こすかを、免疫細胞化学的ならびに分子生物学的手法を用いて解析し、その活性化因子によるアストロサイト活性化の分子メカニズムの解析を分子生物学的手法により解析する。また、アストロサイトと神経細胞の共培養系の実験の立ち上げを行い、平成27年度(最終年度)に向けて、アストロサイトから神経細胞へ供給される因子が、どのような分子機構により神経細胞機能を亢進するかの機能解析を行うための基礎的な検討を行う。
|