研究課題
神経障害性疼痛など慢性疼痛疾患で生じるシナプス可塑性の機序解明を目的とし、これまでに神経障害性疼痛モデルマウスの脊髄後角後シナプス肥厚部(postsynaptic density;PSD)画分のプロテオミクス解析を実施し、増加した2分子を標的分子として解析を行ってきた。本申請課題内では対象分子2つのうちBrain-enriched guanylate kinase-associated protein (BEGAIN)の機能に焦点を当て解析を行った。脊髄後角はI-VI層の層構造を有しているが、これまで我々が明らかにしてきたGluN2BおよびCaMKIIなどの疼痛に関連する分子は、神経障害性疼痛において脊髄後角のI-II層といった浅い層で活性化やリン酸化の亢進といった病態依存的な変化が起こる。それらのことから、難治性の疼痛では脊髄後角の浅い層が重要な場であることを示してきた。そして昨年度までに作製した抗体でBEGAINがIIiの広角側のマーカーであるIB4陽性領域に濃縮して存在することを明らかにしている。一方で神経障害性疼痛では、通常は痛みとして認識しない触覚が耐え難い痛みとして認識されることが知られている。その機序として、伝達効率の増大と投射経路の変化が考えられる。つまり、触覚を投射する経路が疼痛を伝える経路へと変化することを意味する。よってBEGAINの発現領域が疼痛経路であるI-IIiといったより浅い層だけではなく、触覚を伝える深い層で発現するのではと考え、より深い層のIIi層の前角側からIII層のマーカータンパクであるPKCγとの共染色を行った。その結果、BEGAINはIB4陽性領域のみならず、より広くPKCγ陽性の触覚が入力する領域にも発現することがわかった。さらにBEGAINのKOマウスは神経障害性疼痛を抑制するが、生理的な痛みに対する反応性は野生型と同様であることから、BEGAINは脊髄後角のIIi-III層において病態生理的な疼痛に選択的に関与することが示唆された。
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Eur. J. Neurosci.
巻: 43 ページ: 548-560
10.1111/ejn.13139