本研究では、母児間免疫寛容に着目した、早産の新しい予防戦略をたてることを目的として、次の3つの達成段階を設定した。(1)筑波大学附属病院における過去の早産症例の診療録を後方視的に検討し、細菌感染を伴わない絨毛膜羊膜炎の臨床像を明らかにする。これにより、早産を発症機序によって分類し、臨床診断基準を作成する。(2)免疫学的な観点からのスクリーニングと介入を組み込んだ早産予防のプロトコルを作成し、その有用性を検証する。(3)羊水中あるいは血清中の可溶性HLA-Gと早産の進行状況の関連を評価し、早産予防の指標となりうるかを検証する。 (1)についてはすでに診療録と胎盤の病理組織学的検討がほぼ終了した。現在、論文作成に向けて準備中である。(2)についてはプロトコルを作成し、倫理委員会申請準備段階であった。しかしながら、下記で述べる(3)の結果に加え、すでに本邦においても多施設共同研究が開始されているため、単施設の研究による症例の集積で有用性を証明することは難しいと考えられ、プロトコルの変更を検討中である。(3)については23人の妊婦から臨床検体(妊婦血液)を採取し、可溶性HLA-Gの測定を行った。全ての妊婦の妊娠転帰が明らかになるのを待って、最終解析に入る予定である。予備解析の段階では、妊婦血清中の可溶性HLA-Gと早産の進行状況との関連については、有意な関連が認められていない。このため、血清可溶性HLA-Gをスクリーニングに用いる(2)の早産予防のプロトコルについては、修正の必要があると考えている。
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