研究実績の概要 |
本研究では、急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome: ACS)患者の転帰改善のため、病院前の救急搬送および病院到着後の治療に関するデータを前向きに登録・分析し、『救急搬送されるACSの実態を把握し、適切な救急医療体制ならびに治療ストラテジーを検討すること』を目的としている。最終年度となる平成28年度は、症例データの収集を継続するとともに、大阪府泉州二次医療圏で集積された救急搬送データを用いた解析を進め、学会発表を行った。平成23年9月から25年9月までの間に研究協力病院へ救急搬送された18歳以上の症例は52,543例、そのうち医師によりACSと確定診断された症例は351例であり、ACSプロトコルがどれだけACSを推定できていたか分析した。同プロトコルでACSが推定された患者は224例(63.6%)であり、ACSが推定された症例は推定できなかった症例と比較して生存割合が高かった(98.2% vs 86.6%)。ACSを推定できなかった127例のうち55例は重症度・緊急度が低いと判断されており、50例では症状の特定がなされていなかった。ACSを推定できなかったそれ以外の症例については、その48.6%でバイタルサインの異常が見られるなど何らかの異常所見・症状が認められたが、その徴候がACSプロトコルに含まれていないためにACSの推定につなげられなかった。ACS患者の適切な救急搬送には、典型的な胸部症状が認められない患者を抽出できるプロトコルの開発やスクリーニング手法の導入、そして救急隊の患者アセスメント能力の強化が必要と考えられた。現在、泉州地域での実績を踏まえて大阪府全域を網羅した全救急搬送事例の登録システムの構築が進んでおり、本研究で得られた知見を反映させて、救急搬送されるACSの実態の把握、ならびに適切な救急医療体制・治療ストラテジーの検討を進めていく予定である。
|