これまでに我々は熱帯熱マラリア原虫の抗原タンパク質であるSERA5のN-末端ドメイン由来の組換えタンパク質を抗原とする BK-SE36ワクチンの開発を行ってきた。2010年より、アフリカ・ウガンダのマラリア高度流行地域において、6-20歳健康児童を対象とした第Ib相臨床試験を実施し、安全性、および免疫原性を確認した。さらに追跡研究において、マラリア症状を72%減少することが明らかにした。 そこで、今回明らかとなったBK-SE36ワクチンの効果が被験者の持つ遺伝的バックグラウンドによるものではないことを確認するために、以下の解析を実施した。(1)IgGレセプターとして知られるFcgレセプターの中でも、FcgRIIa中の131番目のHis→Asn変異、FcgRIIa中の176番目のPhe→Val変異がIgGとの結合力を増強させ、マラリア抵抗性を高めることが報告されている。そこで、これらの変異とBK-SE36ワクチンの効果との関係を解析した。また、(2)Fcgレセプター遺伝子群の中でも特にFcgRII、FcgRIIIはゲノム上にタンデムにコードされており、この領域は遺伝子の重複や欠失が起こりやすく、対になる2アリルのみならず、1、3、4アリルなどとコピー数にばらつきがある(コピー数変異)。このコピー数変異がマラリア抵抗性に関与していることが報告されており、コピー数変異とBK-SE36ワクチンの効果との関係を解析した。さらに、(3)鎌型赤血球貧血症患者はマラリア抵抗性を持つことが知られており、その原因として、ヘモグロビンβ鎖の6番目のアミノ酸に置換が生じていることが知られている(Glu→Val変異)。そこで、この変異とBK-SE36ワクチンの効果との関係を解析した。その結果、いずれの変異もBK-SE36ワクチンの効果と統計学的に有意な関連は認められなかった。このことから、第Ib相臨床試験およびその追跡研究で確認されたBK-SE36ワクチンの効果は今回解析した変異とは関係なく有効であることが確認できた。
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