活性酸素種による遺伝子損傷は、加齢とともに増加し、がんの発症の一因となっている。本研究では、身体活動とDNA損傷、および、DNA損傷修復遺伝子のメチル化との関連を検討した。 身体活動とDNA損傷の関連については、DNA損傷マーカーである尿中8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)の濃度は、女性では総身体活動量と負の相関が、男性では中高強度の身体活動量と負の相関がみられた。 末梢血DNAの遺伝子修復酵素(OGG1)の遺伝子のプロモーター領域(CpG island)のメチル化状態については、パイロシーケンス法を用いて測定した。OGG1遺伝子のプロモーター領域の9か所のCpGの平均メチル化割合は1.1%~5.4%であった。最もメチル化割合の高かった部位の平均メチル化割合は、年齢階級(40歳代、50歳代、60歳代)別の横断的検討では、ベースライン時点、5年後調査時点共に年齢階級による有意な差は認めなかった。一方、経年変化をみると、いずれ年齢階級も、5年後のメチル化割合が有意に低かった。また、このメチル化割合が経年で低下する関連は5年間にがんに罹患した人では認めなかった。さらに、ベースライン時点の情報を用いて、この部位のメチル化割合と身体活動レベルとの関連を検討したところ、身体活動レベルが低いほどメチル化割合は低く、5年間にがんに罹患した人を除いた検討でも同様の結果であった。 以上より、遺伝子修復酵素のプロモーター部位のメチル化割合は低く保たれているが、さらに加齢や低い身体活動レベルと低メチル化状態が関連することから、遺伝子損傷の修復を必要とする状態では脱メチル化が進む可能性が示唆された。一方、がん罹患者では、このような傾向が見られないとから、遺伝子修復酵素のプロモーター領域の脱メチル化が起こりにくいと、がん罹患リスクが高まる可能性が示唆された。
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