研究課題/領域番号 |
25460760
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
林田 直美 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (00420638)
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研究分担者 |
高村 昇 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 教授 (30295068)
鈴木 眞一 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (70235951)
南 恵樹 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 客員研究員 (90398165)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小児 / 甲状腺 / のう胞 / 結節 / 転帰 |
研究実績の概要 |
福島県では、福島第一原子力発電所事故後、県民健康管理調査の一環として小児を対象とした甲状腺超音波検査が行われている。この検査では、約40%の小児で小さな結節やのう胞が認められている。さらに、これまでに検査を行われた30万人余りのうち、110人が悪性ないし悪性疑いであったと報告されている。しかしながら、小児における甲状腺所見の頻度について、疫学的な実態を広範囲に調査した報告はないため、日本人一般小児における甲状腺超音波検査の有所見率とその転帰を明らかにすることを目的として調査を開始した。 長崎大学が併設する教育研究機関の幼稚園・小学校・中学校及び長崎市内の高等学校に通園・通学する3~18歳の対象者の保護者に対して、文書によるインフォームドコンセントを行い、保護者からの同意が得られた児童生徒1,369人を対象者として検討した。結果、対象者の43%に甲状腺のう胞が認められ、そのうち5mm以下のものが全対象者の39%、5mmを超えるものが3%であった。さらに、結節は調査対象者の0.7%(8人)にみられ、5mm以下は全対象者の0.1%、5mmを超えるものは0.6%であった。この結節症例の転帰についてさらに調査を行ったところ、経過が明らかであったものは5例(結節症例の62.5%)であり、3例は転帰不明もしくは調査への同意が得られなかった。結節症例のうち、精密検査の結果、のう胞と診断された症例が2例(25%)あり、うち1例は経過観察中にのう胞消失、さらに1例はのう胞のサイズ縮小を認め、いずれも経過観察は終了となった。さらに2例は良性腫瘍の診断であり、サイズの変化なく経過観察されている。今回、1例が悪性疑いであり、小児において悪性が疑われる割合は全体の0.07%であることが明らかとなった。この結果から、のう胞は短期間に変化する所見であること、一定の割合で悪性疑いが認められることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請では、一般小児における甲状腺超音波検査の有所見率とその転帰を明らかにすることを目的とし、福島原発事故の影響を受けていない、長崎市の小児における甲状腺のう胞や結節の有所見率を明らかにすることができた。さらに、二次検査を行った症例を追跡することで、のう胞や結節が極めて短期間に変化、つまり、のう胞の縮小や消失があること、小児甲状腺のスクリーニングでは一定の割合で悪性疑いが認められることが明らかとなった。よって、福島県民健康調査の結果の解釈に有益な結果が得られており、おおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本申請では、一般小児における甲状腺の調査を行ってきた。その一方で、成人においても頚部超音波検査による甲状腺疾患のスクリーニングは行われておらず、超音波検査で発見される甲状腺異常の頻度に関する報告はほとんどない。さらに、甲状腺超音波による検診では、治療の必要がない甲状腺所見、特に、臨床的には治療の対象とならない癌までが指摘される可能性があり、甲状腺検診の方法と意義についてはいまだエビデンスが得られていない。このような中、福島原発事故の影響を懸念し、福島県外においても小児だけでなく成人の甲状腺超音波検診を行おうとする動きがあり、甲状腺検診のあり方については早急に検討がなされるべきであると考える。 そこで、今後の調査では、さらに成人の一般住民において、頚部超音波検査による動脈硬化検診時に甲状腺検診を行った結果を用いて、偶発的に発見される甲状腺所見の頻度及び所見内容を明らかにし、これまでの小児での調査結果と比較検討する。さらには、福島県内の小児において、所見の経時的な変化を調査し、検診間隔の妥当性を評価することとする。 今回の調査で、超音波検診における甲状腺の有所見率とその所見が明らかになれば、甲状腺検診の意義と方策を検討する上で、さらに有益な情報をもたらすことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、統計解析ソフトを購入予定であったが、新バージョンが発売される可能性があることから解析直前に購入することとし、当該年度の購入を見合わせた。 以上の理由から、当初の予定より支出累計が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
調査をさらに発展させ、これまでの結果と合わせて総合的に解析するために、計画を見直したため、新たに一般住民および福島県内小児における甲状腺超音波検診を行う必要性が生じた。このため、調査のための旅費および調査場所への滞在費が必要となると考えられる。また、画像の判定確認および結節などのサイズ計測のために、画像解析ソフトの購入が予想される。さらに、得られた結果をもとに学会発表などを行う予定であり、そのための旅費としての支出を予定している。
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