研究実績の概要 |
鹿児島県内の30歳~79歳の乳がん患者227名と、がん検診目的で外来を受診した335名の対照群について検討した。乳がん患者の病理学的所見およびホルモン受容体(ERおよびPgR)、HER2、分化増殖マーカーであるKi67の発現を調べ、喫煙による乳がんリスクへの修飾作用の有無を検討した。喫煙状態とこれらの蛋白の発現頻度に関連は認められなかった。年齢、BMI、出産の有無、運動、野菜の摂取などの要因を調整した上で、喫煙による乳がんリスクを検討した結果、HR陰性(ER、PgRともに陰性)の現在喫煙者ではオッズ比が3.8(95%信頼区間:1.1, 13)、HR陽性群(ER、PgRのどちらかが陽性)では3.3(95%信頼区間:1.5, 7.1)であり、HR発現の有無によって、喫煙と乳がんリスクとの関連に顕著な違いは見られなかった。また、HER2陰性群の現在喫煙者のオッズ比は3.4(95%信頼区間1.5, 7.5)、HER2陽性群は2.9(95%信頼区間:0.6, 15)であり、こちらも有意差はなかった。乳がんのサブタイプ別の解析においては、HER2タイプ(HR陰性、HER2陽性)で、喫煙による乳がんリスクが高い傾向を示したが、HER2タイプは9例と少ないために今後の検討が必要である。一方、非喫煙女性において受動喫煙と乳がんリスクを検討したところ、受動喫煙によるオッズ比が、HR陰性群では3.2(95%信頼区間:1.2, 9)、HR陽性群では2.2(95%信頼区間:1.2, 3.9)とHR発現の有無による有意差はなかった。またHER2陰性群では2.2(95%信頼区間1.2, 4.0)、HER2陽性群は4.0(95%信頼区間:1.3, 12)と、HER2陽性群で高い傾向を認めた。呼吸器系上皮細胞において、喫煙によってHER2活性化が誘導される可能性があり、乳腺でも詳細に検討する必要がある。
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