血中高密度リポ蛋白コレステロール(HDL-C)の高値が動脈硬化抑制的であるかどうかの議論は続いている。本課題ではHDLの質的変化を反映する酸化HDLを用いてHDLに関する理解を深め、併せてHDLの質的管理への言及を目的としている。これまでの検討で喫煙、脂肪肝、メタボリックシンドロームの病態下でHDLは酸化することが分かってきた。これらの存在下では高HDL-C血症であってもHDL機能不全が潜在すると考えられる。今年度はさらに臨床設定で検討を進めた。有意義であった所見を中心に記す。心筋梗塞の既往のある男性集団(35人)において、性別・年齢を合わせた対照集団と比べたところHDL-Cは軽度に低く(平均54対56 mg/dL)、HDL-C当たりの酸化HDLは高かった(平均5.2対3.9、p < 0.05)。降圧薬や脂質低下薬の使用を考慮しても同様の結果であり、冠動脈疾患保有はHDLの酸化に関連するという所見を追加した。次いで、高HDL-C血症集団(140人)において酸化HDLレベル(平均247 U/mL)の規定要因を検討した。多変量解析で血清アラニンアミノ基転移酵素レベルが有意な正の関連因子として抽出され、肝保護の重要性が改めて示唆される所見を得た。さらに、こうしたHDLの酸化制御について検討した。運動療法の実施集団(11人)において治療前後で比べると、HDL-Cは低下するとともに酸化HDLも低下傾向を示した(前219対後178 U/mL、p = 0.09)。また、脂質低下薬で治療した脂質異常症保有集団(35人)において治療前後で比べると、HDL-Cは変化しなかったが、酸化HDLは低下した(前379対後306 U/mL、p < 0.05)。このように、一連の検討は、例えHDL-Cが高値であってもHDLが酸化する場合があるという具体像を示し、さらにその制御策の一端を示唆するに至った。
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