研究実績の概要 |
本研究の目的は、大規模出生コホート(北海道スタディ)を用い, 親の社会経済要因(所得,親の教育歴)が幼児の発達にどのような影響を及ぼすかを解明することである。本研究によって、社会経済的環境に恵まれない子どもの健やかな発達を保障する介入の時期と対象者の絞り込みが可能となる。 方法:北海道スタディに登録されている平成23年12月~平成25年4月生まれの母子925組を対象として郵送法によるデータ収集を行った。発達の遅れは、1歳6か月時と3歳時に乳幼児発達スケール(KIDS)を用いて評価し、行動の問題は、1歳6か月に M-CHAT、3歳時にSDQのスクリーニングツールを用いて評価した。加えて、1歳6か月調査には、養育環境(ICCE)、家族機能(家族アプガー)、母親のうつ(GHQ)のデータを得た。1歳6か月調査は、平成26年度に終了し、平成27年度は、有効回答の得られた589組(63.7%)の分析を実施した。3歳調査は、「社会経済要因と幼児期発達コーホートのマルチレベル・共分散構造分析(研究代表者;池野多美子)」に引き継ぎ、平成28年7月に終了予定である。 結果:性別、在胎週数などで調整した多変量解析により、妊娠中の所得と総合的な子どもの発達遅れとの関連は観察されなかった。しかし、低い所得は、行動の問題の有意なリスクとなった(OR:2.60, 95%CI,1.05-6.45)。親の教育歴は、父親、母親ともに、子どもの発達や行動の問題のいずれも有意な関連は見られなかった。以上のことから、妊娠中の所得は、1歳6か月の子どもの行動の問題に影響することが示唆された。所得が高くなるほど家族関係と養育環境が良好で (p<0.05, p< 0.001)、母親の教育歴が長いほど母親のうつや不眠が少なかった(p<0.05)。引き続き、子どもに対する発達影響を追跡調査する必要がある。
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