研究課題
本研究は,「環境と子ども健康に関する北海道スタディ」の小規模コーホートにおける出生児を調査対象として,胎児期の環境化学物質曝露によるDNA 損傷と母児の遺伝的感受性素因による交互作用が胎児発育や生後の身体発育および免疫機能に及ぼす影響を解明し,遺伝的ハイリスク群を検出して,早期発見や早期予防的介入へ繋がる効果的な予防対策構築に役立てることを目的としている。近年,世界的に子どもの肥満や喘息,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患,精神行動発達障害などが増加していることが報告されており,胎児期の環境化学物質曝露がその一因として示唆されている。本研究では,妊娠中の母親から採取,保存している母体血(血清)で酸化ストレスマーカーである8-OHdG濃度を高感度ELISA法(検出限界値0.125ng/mL)で測定し,DNA損傷度指標とした。妊娠中に採取した母体血および出生時に採取した臍帯血から抽出したDNA検体で抗酸化作用に関与するPON1遺伝子の遺伝子多型とDNA修復に関与するXRCC1遺伝子,ERCC1遺伝子,OGG1 遺伝子の遺伝子多型の解析を実施した。環境化学物質曝露に対して遺伝子多型の違いによるDNA損傷度やDNA修復能の個体差について評価した。本研究のベースライン調査票では,妊娠中の社会経済的状況や栄養状態,飲酒,喫煙などの生活習慣を把握しており,診療録から分娩,出生時の母児の状態を収集している。また,生後6ヵ月,1歳6ヵ月,3歳6ヵ月,7歳時の追跡調査票でも,児の食生活や受動喫煙曝露状況などの生活環境および身体発育や感染症,アレルギー疾患の状況を把握している。
2: おおむね順調に進展している
今年度は,母体血清について酸化ストレスマーカー8-OHdG濃度の測定が全て終了した。妊婦476名の平均値は0.14±0.11 ng/mL,中央値は0.13 ng/mLであった。DNA修復または抗酸化作用に関与するDNA遺伝子多型解析は,母体血496検体で2多型(OGG1,PON1),臍帯血292検体で6多型(XRCC1,ERCC1,OGG1,PON1)の解析が終了した。
胎児期の環境化学物質曝露(ダイオキシン・PCBs類,PFOS/PFOA,MEHP,BPA濃度が測定済)によるアウトカム評価を行う。診療録から得た出生時体重・身長と生後6ヵ月,1歳6ヵ月,3歳6ヵ月,7歳時の追跡調査票から得た身体発育状況(体重・身長,体格指数)を,また,1歳6ヵ月,3歳6ヵ月,7歳時のISAAC調査票から得た感染症,アレルギー疾患の発症・維持,寛解を解析して総合的に評価する。さらに,DNA損傷(遺伝要因)によるアウトカム評価を行い,曝露要因と遺伝子多型解析から得られた母児の個体要因を総合的に解析して遺伝環境交互作用の解明を行う。胎児発育や生後の身体発育,感染症・アレルギー疾患発症に関連する要因の評価を行ない,胎児期の環境化学物質曝露に対する発育遅延,免疫機能低下の危険因子を同定し,研究成果について,学会ならびに学術専門雑誌に発表する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 8件) 学会発表 (16件)
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