プラスチックの可塑剤として用いられているフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)はげっ歯類において肝腫瘍の形成をもたらすため、ヒトでのリスクが懸念されている。DEHPの代謝物はペルオキシゾーム増殖剤活性化受容体α(PPARα)のリガンドであり、PPARαを介した腫瘍形成機構が想定されてきた。そのため、ヒトとマウスで機能や発現量が異なるPPARαを介した肝腫瘍はヒトでは起こらないとの見方もされている。 我々は、このPPARαの機能の違いを考慮し、ヒト型のPPARαをもつトランスジェニックマウス(hPPARαマウス)と通常のマウス型のPPARαをもつ野生型マウス(hPPARαマウスのPPARα発現量は野生型マウスと同程度である)を用いて発がん実験を行った結果、両者でDEHPの肝腫瘍形成パターンが異なることを明らかにした。 さらに、前腫瘍病変も加えて解析を行うと、好酸性の腫瘍ではなく好塩基性の腫瘍形成がDEHPの曝露と関係がある可能性が示された。これまでPPARα以外の経路の候補として考えられていた構成的アンドロスタン受容体を介した経路ではなく、小胞体ストレスの関与が考えられた。これにはPPARαのノックアウトマウス、野生型マウス、hPPARαマウスというPPARαの違いは関係していなかった。 以上より、DEHPによる肝腫瘍形成にはPPARαを介した経路とPPARαを介さない経路の両方が存在する可能性が示唆された。
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