MEK-ERK経路およびPI3K-Akt経路は、がん細胞の無秩序な増殖と細胞死抵抗性に深く関与する細胞内シグナル伝達経路だと考えられている。MEK-ERK経路阻害効果が報告されている大豆由来イソフラボンの一種ダイゼインの腸内代謝物エコールと、PI3K-AKT経路阻害効果を研究代表者らが見出したキャベツや白菜などのアブラナ科野菜に含まれるブラシニンを併用することにより、ヒト大腸がん由来HT-29細胞の細胞増殖抑制効果が増強されることを見出した。この増殖抑制効果は、フローサイトメトリー解析により、細胞周期のG1期停止およびアポトーシス誘導によるものと考えられた。細胞周期停止には、エコール・ブラシニン併用処理時にウェスタンブロッティングで観察されたCDKインヒビターのひとつであるp21発現上昇の関与が考えられた。またアポトーシス誘導は、カスパーゼの阻害剤であるz-VAD-fmkにより抑制されたことから、カスパーゼ依存的であると考えられた。カスパーゼの基質を用いて活性測定を行うと、併用処理時に活性化されることが確認された。またウェスタンブロッティングにより、併用処理時には実行カスパーゼであるカスパーゼ3の活性化とともに、カスパーゼ9の活性化もみられた。カスパーゼ9はミトコンドリアを介する内因性経路に関与すると考えられている。そこでミトコンドリア膜電位のインジケーターであるJC-1による染色を行うと、併用時には赤色/緑色蛍光比が低下し、膜電位が低下していることが示唆された。以上より、ブラシニンとエコールの併用により細胞増殖抑制が増強されること、そのメカニズムとしてp21誘導による細胞周期のG1期停止と、ミトコンドリアを介する内因性経路の活性化によるアポトーシス誘導が関与していると考えられた。
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