研究課題/領域番号 |
25460825
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
李 順姫 川崎医科大学, 医学部, 助教 (70414026)
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研究分担者 |
大槻 剛巳 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40160551)
西村 泰光 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (90360271)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 珪酸 / 免疫動態 |
研究実績の概要 |
珪肺症は、砕石などに含まれる珪酸(SiO2)粉塵を慢性的に吸入することでひきおこされる塵肺である。特筆すべき点として、自己免疫疾患を高頻度で合併する。これまで我々は珪肺症患者において抑制性T細胞(Treg)の機能および数の低下が見られることを報告した。 本研究では珪酸曝露による各種免疫担当細胞(T細胞、マクロファージ、樹状細胞など)の機能変動の解析、特に、珪酸曝露によるT細胞の極性(polarity)への影響を健常人由来免疫細胞や珪酸長期曝露細胞株さらに珪肺症患者由来免疫細胞を用いて解析し、その免疫動態の変遷過程を明らかにすることで、多様な「自己免疫疾患」発症、自己寛容破綻のメカニズムの解明をめざす。本課題は、治療に難渋するすべての自己免疫疾患の解決に結びつくメカニズムを明らかにしようとするものである。 初年度に健常人由来免疫細胞に対する珪酸曝露で細胞周期制御に関わるCycDの発現が低下し、また、Th17の分化、維持に必要なIL-6、IL-23のmRNAの発現が高まっていることを報告した。 2年度目には初年度に検討したex vivoでの解析に加え、珪肺症例での免疫指標の検討を行い、珪肺症患者血漿において各種自己抗体が健常人に比べ顕著に上昇していることを見いだした。さらに、興味深いことにFas/FasLのシグナルを阻害するDcR3の血漿中濃度が健常人に比べ顕著に増加していた。 in vitroにおいて、免疫細胞への珪酸曝露は自己免疫疾患を増悪させる因子を誘導すること、また、珪肺症例において自己免疫疾患は診断されていなくとも確かに自己抗体が増加していることから珪酸曝露と自己免疫疾患発症には少なからず因果関係があることが示された。また、DcR3の増加が捉えられ、珪肺症例においてどのような機能を果たしているのか大変興味深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に、健常人由来免疫細胞に珪酸曝露を施すと、自己免疫疾患増悪に関わるTh17細胞群の分化、維持に重要なサイトカインであるIL-6やIL-23などが増加することを見いだした。この結果は、珪酸が自己免疫疾患発症に少なからず関与していることをex vivoでも再現したものと考えている。また2年度目は、自己免疫疾患の診断を受けていない珪肺症患者由来血漿中の自己抗体濃度を調べた。その結果、いくつかの自己抗体が健常人に比べ顕著に高い値を示した。これらは、自己免疫疾患を発症していなくとも、珪肺症患者では自己抗体が出現しており、明らかに自己免疫疾患へ傾向していることが示唆された。これは当初、3年目に予定していた珪肺症例の血漿データが2年目で解析できたもので、当該研究は順調な進捗状況と考えている。 さらに、血漿中因子解析の中で、Fas/FasLシグナルの阻害因子であるDcR3が上昇していることは非常に興味深い発見と考えている。今後、DcR3と自己免疫疾患の関連も検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、健常人由来細胞への珪酸曝露影響の標的細胞の同定をする。また、免疫細胞の細胞増殖に対する珪酸曝露の影響を遺伝子発現や、CFSEによる染色などで明らかにする。 さらに、血漿中のサイトカインや可溶性受容体など、自己免疫疾患のレギュレーターとなりうる因子の測定、および統計学的解析を行う。因子間の相関関係の解析、因子分析などを行うことで、想定外の関連因子の抽出や本質的な変遷過程を明らかにする。
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