研究課題
珪肺症は砕石などに含まれる珪酸粉塵の慢性的な吸入によりひきおこされる塵肺である。特筆すべき点として、Caplan症候群、強皮症、ANCA関連血管炎などの自己免疫疾患を高頻度で合併する。これまでに我々は珪肺症患者において抑制性T細胞の機能および数の低下が見られることを報告した。本研究の目的は、珪酸曝露による各種免疫担当細胞の機能変動の解析、そして珪肺症患者由来免疫細胞を用いて解析し、その免疫動態の変遷過程を明らかにすることで、治療に難渋するすべての自己免疫疾患の解決に結びつくメカニズムを明らかにしようとするものである。初年度に健常人由来免疫細胞に対する珪酸曝露により、細胞周期制御に関わるCycDの発現の低下、およびTh17の分化、維持に必要なIL-6、IL-23のmRNA発現が高まっていることを報告した。2年度目には珪肺症例での免疫指標の検討を行い、珪肺症患者血漿において各種自己抗体が健常人に比べ顕著に上昇していることを見いだした。さらに、Fas/FasLシグナルを阻害するDcR3血漿中濃度が健常人に比べ顕著に上昇していた。最終年度には、珪肺症患者由来血漿中サイトカインや、免疫活性化指標となる因子を解析し、臨床指標との統計解析を行った。その結果、DcR3値は呼吸器病態や自己抗体など臨床的指標と単独で相関を示すものはなかったが,免疫活性化の指標であるTGF-βおよびsIL-2Rと相関が見られた。重回帰分析により珪肺症においてDcR3が異常な免疫活性を示す因子であることが示唆された。因子分析でDcR3は,ANCA関連血管炎の萌芽の状態に関連することが強く示唆された。本結果は、珪酸曝露によりin vivo, ex vivoでも自己免疫疾患を誘発する素地を形成する方向で遺伝子発現が誘導されていることが示唆された。今後、自己免疫疾患の萌芽を早期に検出することに役立てたいと考えている。
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日本予防医学雑誌
巻: 10 ページ: 119, 125