研究課題
本年度は、健康な保育園児を対象に、肺炎球菌の保菌状況についての調査を行った。対象とした保育園児は、2011~2012に行った保菌調査と同じ地域・条件で選択し、保護者の同意を得た上で、各児の咽頭をスワブで拭い培養検査に供した。その際、ワクチンの接種状況等について聞き取りを行った。これを2014年4月から2015年3月まで、毎月1回の頻度で実施し、分離された肺炎球菌について、菌種の同定、血清型別、薬剤感受性試験を行った。今回の調査で対象となった園児は45名で、のべ538検体について培養検査を行い、359株の肺炎球菌が分離された。これまでに、そのうち316株について前述した解析を実施した。ワクチン普及期であった2011年の調査では、PCV-7でカバーされる血清型は約18%であった。一方、広く接種が進んだ今回の調査では、約1%となっており、明らかに減少傾向にあることが明らかとなった。また、検出数が多かった血清型で見ると、15A (32%)、35B (18%)、10A (8%)、24F (6%)、11A (5%)の順となり、これらはいずれもPCV-7とPCV-13非対応型で、前回調査の結果と大きく異なっていた。一方、これまで問題となってきたペニシリンへの感受性は、いわゆるPRSP 16%、PISP 29%、PSSP 54%となっており、全体的に見ると前回調査と大きな変化は見られなかった。しかし、最も多かった15Aのうち、96%がMIC値1μg/mL以上の非感受性株が占めており、これが大きく影響したものと考えられた。以上の結果から、健康な小児における保菌についても、ワクチンが影響していることを示しており、今後、15Aのようなワクチンを回避した薬剤耐性株の再流行に注意が必要であると考えられた。
3: やや遅れている
本年度は健康幼児からの保菌由来の菌株分離をし、その同定や血清型などに集中的に取り組み、それらについてはおおむね順調に実施できている。また、並行して大阪府内で発生した侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)由来株の収集、解析も同様に実施している。一方、MLSTやペニシリン結合蛋白(PBP)遺伝子、その他薬剤耐性遺伝子などについての解析について、まだ実施できていないものが多く、IPD由来株との比較検討にはいまだ至っていない。
引き続き本年度に得られた健康保育園児由来菌株についての解析を実施し、保菌調査実施時に収集したワクチン接種状況や時間軸などを加味して疫学的解析を実施する。また、前回の調査で得られた菌株についても同様に解析を実施し、ワクチンの普及が与えた保菌への影響について精査する。さらに、MLST、薬剤耐性遺伝子等の遺伝子解析を行い、これらに基づいた菌株間の関連性について検討し、園児同士や保育園における伝播の広がりについての解析を試みる。また、保菌由来株に高病原性株が含まれる可能性について検討するために、IPD由来株と、血清型・薬剤感受性・遺伝子解析に基づいて比較検討を行う。
研究遂行にあたり、遺伝子解析など一部の菌株解析が実施できなかったことにより、次年度で実施するための主に物品費として計上した。
次年度分とあわせ、未実施の菌株解析や他の解析に用いる予定である。
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病原微生物検出情報
巻: 35 ページ: 179-181