研究代表者が勤務する東邦大学医療センター大森病院で使用されている電子カルテデータから、5千万件以上の診断名、検査、投薬、手術、診療記録などの多彩なレコードを元に、当院オリジナルのデータウェハース(DWS)サーバーを構築し、毎年最新のデータベース更新を年度毎に更新作業を行った。 今年度は最終年度として医療安全への活用を行うべく、近年問題になっているベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)の適正使用に応用した。 当院のみならず本邦で未だ不適切な投薬を改善するためには病院全体での処方の特徴を把握して対応する必要がある。そこでDWSより睡眠・向精神薬の全データを診療科毎に集計し、さらにそれらを専門診療科、非専門診療科に分類した。また当院の転倒・転落患者に対する睡眠・向精神薬の使用状況や薬剤別の転倒・転落率を調査した。全処方の内、非専門診療科処方率は62.0%であった。高齢者(65歳以上)に関しては、同処方率は77.9%であり、さらに最も問題になる入院高齢者の同処方率は93.2%に達した。処方内容としては、BZD処方率は全体で59.7%と高率であった。当院の入院転倒・転落発生率は1.49‰であり、そのうち睡眠・抗不安薬使用割合は49.2%であった。その内BZD使用率は63.2%であり、2剤以上の薬剤投与は21.3%であった。薬剤別の処方人数に対する転倒・転落発生率はBZD全体6.4%に対して、非BZ系は3.3%と有意にBZDが高率であった。これらのことから、入院高齢者の睡眠・抗不安薬処方はほとんどが非専門診療科であり、BZDの投薬は未だ多い現状が確認された。当院の入院中の転倒・転落発生率は他院と比較して高くは無いが睡眠・抗不安薬の投薬比率は高く、多剤投与も多くみられた。またBZDの転倒・転落発生率が比較的高いことが確認された。 これらの特徴を元に適切な薬剤投与を推進するべく、病院全体での指導や教育を行うことができた。
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