研究実績の概要 |
医療の質と安全の確保は先進各国において重要な政策課題であり、各国で医療の質を客観的に把握、評価する臨床指標が開発されている。米国AHRQ(Agency for Healthcare and Quality)は、1990年代前半から医療の質に関する臨床指標の開発とデータ収集事業を開始し、医療安全領域の指標群をPSI(Patient Safety Indicators)として整理している。PSIは、主に潜在的に予防可能な合併症に着目し、入院後に発症した病態に関する情報等をもとに指標値が算出される。 本研究では、①公益社団法人全日本病院協会による医療の質評価事業(Medi-Target事業)のDPCデータを用いて周術期ケアに関連するPSIを算出し、②PSIと手術件数、患者重症度、その他の病院属性との関連の分析、③国内外における周術期ケアの質評価の現況と課題を明らかにし、今後の方向性を検討した。 PSIの算出には2009年1月から2011年12月に退院した患者の連結不可能匿名化されたDPCデータを用いた。周術期ケアに関連するPSIとして、PSI#4(術後の治療可能な重症合併症による死亡率)、PSI#9(術後の出血、血腫発生率)、PSI#13(術後の敗血症発生率)を取り上げた。分析対象は191施設、1,955,100名であった。 月当たり手術件数とPSIとの関係を解析した結果、PSI#4は月当たり手術件数と有意な負の相関がみられた。一方、PSI#9とPSI#13では、月当たり手術件数と有意な正の相関がそれぞれみられた。 また、医療安全に関連する病院属性とPSIとの関係に関する解析では、医療安全対策加算の算定状況に基づいて病院を2群に分け、群間で各PSI指標値を比較した。その結果、PSI#4とPSI#13では、各年とも統計学的有意差はなかった。PSI#9は、2009年は医療安全対策加算を算定している群で有意に低値であったが、2010年は医療安全対策加算を算定している群で有意に高値であるなど、一定の傾向は認められなかった。
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