研究概要 |
ノンコードRNAであるmicroRNA(miRNA)は,約20塩基の非常に短い一本鎖RNAであるが,遺伝子発現を制御する機能を持ち,高次生命現象や病態への関与が注目されている.短いがゆえに死後も体内に残存することがこれまでの実験で確認されており,法医実務に有効なバイオマーカーとなりえる可能性を持つ.本年度は,ラットを用いて死後経過時間と死後残存するmiRNA の相関を観察し,死後経過時間推定のマーカーとしてのmiRNA確立を目的とした. 実験方法としては,週齢10週のSDラット18匹(平均重量439g)を過剰麻酔で安楽死させ,その直後から死後72時間までの間を0h,12h,24h,36h,48h,72hの3匹6群に分けた.それぞれのラットの心臓および肝臓を試料とし,市販のRNA抽出キットを用いてトータルRNAを抽出した.これまでの研究結果で死後も安定して残存しているmiR-16,miR-21を内在性コントロールとして選択し,ターゲットを6種のmiRNA(Let-7d*, miR-207, miR-346, miR-758, miR-872*, miR-346),およびU6snRNAとした.TaqMan microRNA Assay法により検討した結果,心臓ではmiR-16が,また肝臓ではmiR-21がそれぞれ死後も安定して一定の残量を示したことからこれを内在性コントロールとした.7種のターゲットの解析結果は,いずれもU6snRNAをターゲットとしたものが最も相関関係がよく,それぞれの相関係数は心臓(コントロールmiR-16)でR2=0.8814,肝臓(コントロールmiR-21)でR2=0.6088を示した.U6snRNAはmiRNAではないが,逆に106塩基とある程度の長さを持ち,死後経過時間とともに適度に分解されていくことが,相関を良くした理由であると推察される.
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