研究実績の概要 |
マイクロRNA(miRNA)は約20塩基の1本鎖ノンコーディングRNAであるが,様々な生命現象や病態への関与が注目されている.そのmiRNAは短いがゆえに死後も残存することが確認されており,法医実務に応用可能な新たなバイオマーカーとなる可能性を持つ.そこで本年度は,ラットに肉体的なストレスを与えた後に安楽死させ,心筋を試料として次世代シークエンサーによるmiRNAの網羅的検索を行った.与えたストレスは,アルコール摂取後にトレッドミルで運動させ,さらに2kg水袋による抑制である.過剰麻酔による安楽死後,心筋からtotalRNAを抽出し,次世代シークエンサーIon PGM Systemにて塩基配列データを得た.500種を超えるmiRNAの中からKruskal-Wallis検定の結果,7種のmiRNAにおいて,コントロールとストレス群間に有意差が見られた.すなわち,miR-126a-3p, 143-3p, 6-5p, 26a-5pの4種は発現量が有意に増加し,逆にmiR-22-3p, 29a-3p, 29b-3pの3種は減少した.これらの中でmiR-143-3pと22-3pは最も顕著にストレスに対して増減が大きく,これらがストレスマーカーと言えよう. また,これまでにラット血中miRNAを用いたTaqMan法による死後経過時間の推定に適したmiRNAを同定してきた.注目すべき点は,通常の実験とは逆に安定しているmiRNA(miR-451)を内在性コントロールとし,4.5S RNA(AY228147)をターゲットとする方が死後経過時間と極めて良い相関(R^2=0.934)が得られたことである.. 以上のように本研究ではラットにおける「死後経過時間推定マーカー」及び「ストレスマーカー」としてのmiRNAが同定された.さらにヒト試料を用いての検証を経て法医実務に応用可能となるであろう.
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